にし人西陣のひと

「にし人」特別編 令和3年度「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)①」開催レポート〜3年目のつながりと発展〜

伝統産業「西陣織」をはじめ、深く長い歴史が受け継がれてきた街、西陣。
だからこそ「どこか近寄りがたいなあ……」と、遠ざけてしまっている方もいるのではないでしょうか?

しかし、少し覗いてみると、幅広い分野で活躍する人が増え、活力と可能性に溢れたエリアでもあります。

西陣を中心に、人や企業、地域団体がつながってほしい。そして地域の中の人も、外から関わりたい人もみんな巻き込んで、協業や広がりを生んでいきたい。そんな想いから、この「つぎの西陣をつくる交流会」、通称「つぎにし」は2019年にスタートしました。
1年目はリアルな場で、2年目はオンライン上で、それぞれ新しいつながりが生まれています。

3年目となる今年は、「知る→動き出す〜キッカケの場〜」がテーマ。令和3年度、第一回目となる交流会を、2022年1月29日に開催しました。
コロナ禍のため、昨年度に引き続きzoomを使ってのオンライン開催に。しかし、場所を選ばずに参加できるのがオンラインの良さ。西陣はもちろん、京都市内から、東京や横浜、愛知や富山まで、約50名の方々が一堂に会しました。

本記事では、イベント内で行われたオープニングトーク、プレゼンテーションを、それぞれ紹介していきます。

オープニングトーク

飯髙克昌氏(特定非営利活動法人 ANEWAL Gallery代表理事)

「外に出るギャラリー」をコンセプトに掲げ、築130年以上の京町家を改装して、2004年にオープンしたANEWAL Gallery。飯髙さんが京町家を選んだ理由は、「仕事する場所・生活する場所・みんなが集まる場所の3つが、ぴったり重なったから」。現在は、西陣エリアの4箇所にまで拠点が広がっています。

飯髙:私たちは文化・芸術・デザインの力で、地下道に路地に屋上、廃屋から重要文化財まで、広く都市空間を活用し、社会に対しメッセージ性のある企画を行なっています。

例えば、京町家と町並みに明かりをともす「都ライト」、地域に残る路地をポジティブな視点で再評価して活用する「路地から始める西陣暮らし」など、地域の企業と連携しつつ、様々なプロジェクトを展開しています。世界からアーティストを呼んで、西陣の伝統を体験していただいたこともあります。

これらはすべて、地元の方々の協力があるからこそ成り立つもの。今、西陣には事業者同士だけでなく、そういった地域ともつながる多くの「場」があります。そして、それら「場」同士もまた繋がっています。入り口はどこだとしても、みんなで仲良くやっていきたいですね。

トークの後半では、つぎにし運営の株式会社ツナグム・タナカユウヤ氏との一問一答が行われました。

タナカ:西陣で事業を展開していく面白さはどこにありますか?

飯髙:日本の中でも京都は、ハイコンテクスト(=共有されている価値観や考え方などが多く、「以心伝心」で意思伝達が行われる傾向があること)な文化がある地域。新しい事業って世界中のどこでもできますが、それを歴史ある西陣で、これまでの文脈を理解した上でやることに面白さを感じます。

タナカ:事業をする上で、気をつけた方が良いことはありますか?

飯髙:周囲の皆さんへの説明を怠らないことでしょうか。「言わなくても良いかな」というような細かなことだったとしても、早めに伝えておくと安心だし、助けてくれることも多いですよ。

タナカ:これからの西陣は、どうなって行くと良いですか?

飯髙:私は「アートと地域をつなぐ」という活動をしています。「〇〇と地域」という両輪を持つと、きっと西陣というチームの中で、多角的に発展していけるのだと思います。ぜひ、色々な方と一緒に活動していけたら嬉しいですね。

特定非営利活動法人 ANEWAL Gallery:https://www.anewal.gallery/

プレゼンテーション

オープニングトークの後は、6組のプレゼンターから、それぞれ7分ずつの発表がありました。

①「産廃のアップサイクルからはじめる地域の”つながり”作り」
宮武 愛海氏(sampai 代表)

プレゼンのトップバッターを務めたのは、西陣発・学生主体のアクセサリーブランド「sampai」代表の宮武さん。西陣に関わり始めて約2年の宮武さんは、昨年のつぎにし参加者。この1年で輪が広がり、今年はプレゼンターとしての登壇になりました。

宮武:sampaiでは、西陣の伝統産業・地域産業で出る産業廃棄物を再利用して、ハンドメイドでアクセサリーをつくっています。大学でSDGsを学ぶ学科にいるのですが、日常の中での実践が少ないことに気づきました。若い世代の皆さんにも、社会課題の入り口に立ってもらえる機会をつくりたい。そんな想いから、sampaiの事業を2021年6月からスタートさせたんです。

「つくる責任、つかう責任」だけでなく、大量消費やファストファッションなどへの問題提起もできたらと思います。今後1、2年の目標は、地域産業の関係人口を増やすこと。sampaiだけでなく地域の企業もスポットライトが当たるように、トライアンドエラーを重ねつつ、未完成ながら走り続けていきたいです。

sampai:https://sampai.theshop.jp/

②「イベントを起点にしたコミュニティづくり」
畑 洋一郎氏(Peatix Japan株式会社 コミュニティマネージャー)

大阪、奈良で育った畑さんは、現在お住まいの横浜から登壇。関西のコミュニティ運営者やイベント主催者の方に、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」のファンになっていただけるようにと、活動に取り組まれています。

畑:あなたの身の回りに、素晴らしいコミュニティはありますか?自分の悩みをすっと話せる、安心感があったり。刺激を受けて挑戦したくなる、躍動感があったり。心が満たされるような、充実感があったり。そんな居心地の良いコミュニティは、イベントを起点につくっていくと良いのかなと思います。

イベントで楽しい場を共有し、共感することで、コミュニティは拡張していきます。さらに、私は関西担当のコミュニティマネージャーとして「イベントサロン関西」というコミュニティを立ち上げました。関西エリアのイベントの主催者やコミュニティの運営者が中心に集まっており、現在のメンバー数は約50人。これからも関西にわくわくできるコミュニティが、たくさんできると嬉しいです。

そして、皆さんのイベント開催やコミュニティづくりも応援したいので、ぜひ気軽に連絡してください!

Peatix:https://peatix.com/
イベントサロン:https://eventsalon.peatix.com

③「これからの街における銭湯の役割」
鈴木 伸左衛門氏(源湯<ゆとなみ社>)

下京区にあるサウナの梅湯を発祥とした、ゆとなみ社。その系列店の4店舗目として、2019年7月13日に、源湯の経営は引き継がれました。現在番頭を務める鈴木さんは、「今後銭湯が担っていく役割は3つある」と語ります。

鈴木:1つ目は「廃れてしまっている地域コミュニティの復活」です。今、近所に住む人の顔が分からない方も増えているのではないでしょうか。それを緩和する役割が銭湯にはありますし、地域のコミュニティができれば、災害のときにも役立ちます。

2つ目は「人間関係の再開発」。SNSで誰とでも簡単に繋がれる時代ですが、そこに寂しさを感じる方もいると思います。浴室は、スマホも何もかも手放して入るもの。赤の他人であっても、どこか他人と感じない雰囲気がありますし、思いやりも生まれます。喋りたくなければ黙っていれば良いし、話しかけたらつながりが生まれるかもしれない。お互いの顔が見えるから、誹謗中傷も起こりません。浴室内は、現実世界におけるSNSのようにも感じるんです。

そして3つ目は、「人生の『あそび』を体現」すること。浴槽に浸かって落ち着くことで、心の余裕が生まれ、そこから遊びにつながっていきます。源湯でも、足つぼやマッサージ、DJの音楽演奏や魚の解体ショーまで、たくさんの遊びをしています。ぜひ一度、浸かりに来てください。

源湯:(Twitter)https://mobile.twitter.com/minamotoyu_kt/

④「『京の始末』精神で挑む『ほんまもん』の環境教育とものづくり」
松本 恵里佳氏(PlaRial)

新卒時にはJICA海外協力隊としてボリビアに行き、帰国後はフリーランスとして活動する松本さん。京都に移住して、約1年。そこで出会ったのが「始末のこころ」と「ほんまもん」という言葉だったそうです。

松本:ほんものを買えば大切にするし、そのときは長く使い続けられる。これは、京都の方が身につけ、受け継がれてきた習慣なのだと思います。

私の屋号「PlaRial」は、廃プラスチックをゴミでなく「素材(material)」として定義し直したいと考えた造語。廃プラスチックを活用するだけでなく、コーヒーかすや茶葉、青果物の皮を利用したプラスチックの代用品ができないかと、実験しつつ制作を重ねています。

環境問題に取り組もうとしても、やり方が分からず、実行できない人も多いと思います。だから、敷居を低く、楽しく関心を持ってもらえるような、ものづくりを通した環境教育を提案していきたいと考えています。西陣エリアでも、色々な循環の輪の中に入って、楽しく一緒に活動したいです!

PlaRial:(Instagram)https://www.instagram.com/plarial/
(Twitter)https://twitter.com/pla_rial

⑤「和菓子屋の変えるものと変えないもの」
金谷 亘氏(京菓子司 金谷正廣 6代目)

お店の創業は、江戸時代末期の安政3年。それ以来ずっと変わらず、西陣の一角で営業を続けています。金谷さんは6代目。伝統の味を守りつつ、新たな挑戦に取り組んでいます。

金谷:うちのお店の名物は、真盛豆(しんせいまめ)。緑色の球体のお菓子で、煎った黒大豆が入っています。まぶしてあるのは、州浜粉(すはまこ)という大豆の粉と、青のり。これは、室町時代の高僧・真盛上人が考案したとされています。その後、豊臣秀吉の茶会で千利休が使用し、称賛したという伝記も残っているんですよ。

最近では、新しいお菓子作りに挑戦しています。例えば、学芸員さんとカフェのスタッフの方と議論を重ね、京都市京セラ美術館の収蔵品をモチーフにしたお菓子をつくりました。作品の中にある小ネタを、お菓子にも散りばめているんです。

他にも西陣の宿泊施設「KéFU stay&lounge」の押し菓子を作らせていただいたり、伝統工芸の職人と一緒に和菓子用のお皿や楊枝を開発したりしました。

改めて思うのは、コラボするのって楽しいなと。コラボレーションという言葉がなかった時代にも、お菓子屋さんはお茶人から無茶振りをされて、新しいお菓子が生まれてきたという歴史があったんです。今の時代でも、まわりの方と関わることで、自分ひとりではできない発見が生まれると実感しています。

京菓子司 金谷正廣:http://shinseimame.com/

⑥「つぎにしで広がる西陣の楽しい遊び場所運営」
西田 勝一氏(スペースたて680オーナー)

プレゼンターのトリは、昨年度のつぎにし参加者の西田さんです。趣味は、中学の頃から鉱物収集。高校・大学では7年間美術部に所属し、展覧会へ出展もしたことで、ギャラリー運営にも興味を持ったそう。鉱物+美術の展示会ができる場所をつくりたいと、ギャラリー仕様のレンタルスペース運営をはじめました。

西田:「スペースたて680」の自主企画として、「石コレクションお披露目会 石会たて」を行いました。実は昨年つぎにしに参加した後、色々な方に会いに行ってみたんです。

展示の1回目の開催時には、つぎにしで知り合った「風とCOFFEE」さんに、2回目には「ヴィーガン料理 玄 gen」「喫茶コバ」さんに、それぞれ協力をいただきました。これからの取組みとしては、マニアックな趣味を語る楽しみを、他の人にも広めていけたらなと思っています。

西陣の中でゴルフ用品店という経歴と、鉱物収集・絵画趣味を持つのが私の特徴。これらを生かして、サブカル的な面白さや、関係のフラットさ、楽しさを求める方が集う場所の運営をしていきたいと考えています。それがひいては、西陣の町の楽しさや、住む方々の意外な側面を引き出す場所として機能していったら嬉しいですね。

スペースたて680:https://www.spacetate680.com/

質疑応答・感想共有タイム

6名のプレゼンテーションが終わった後は、質疑応答・感想共有タイム。zoomのブレイクアウト機能を活用し、小グループに分かれて15分×2回の会話を楽しみました。チャット欄では、「登壇者の皆さんに会いに行きたい!」「多彩な方々がいて、とても刺激を受けました」などのコメントが。イベント終了は21時の予定でしたが、アフタートークも盛り上がりを見せました。

sampaiの宮武さん、スペースたて680の西田さんをはじめ、以前の参加者がプレゼンターに、そして以前のプレゼンターが参加者になるなど、様々な関わりが生まれているつぎにし。時間を空けず、令和3年度第2回の交流会は、2月17日に開催されました。

プレゼンターに会いに行ったり、ここから得たアイディアを事業に繋げていったり。今回の交流会が、人に出会い、次のコラボレーションにつながる場になればと思います。

また、西陣での実験的なチャレンジや取組みを共有し応援しあえる「つぎにしラボ」や、新しいカタチのご近所会(町内会)づくりを目指す「西陣ネイバーフッド」など、新たな取組みも次々と立ち上がっています。

つぎにしラボ:https://www.facebook.com/groups/282853830572010
西陣ネイバーフッド:https://24jin.jp/

「西陣は、近寄りがたいなあ……」。そんな風に思っていた皆さんも、ぜひ一度、活動を覗いてみてはいかがでしょうか?今まさに、新しいつながりが生まれようとしていますよ!

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