にし人西陣のひと

松尾さん西陣で続ける意味がきっとある
~職人の風土が息づく西陣でクラフトビールづくり~
NPO法人HEROES理事長松尾浩久さん

今回は自閉症の人と共にクラフトビールづくりを立ち上げられた、NPO法人HEROES理事長の松尾浩久さんにお話を伺いました。

 

HEROESを立ち上げられた経緯と事業について教えてください。

僕は社会福祉法人西陣会に学生ボランティアで関わり、就職したのですが、そのキャリアの多くで障害者福祉、特に自閉症の方の福祉に携わりました。その中で、重度な障害のある方が利用できる場所が少ないという課題を感じていて、そんな場を一つ増やしたいと考え、独立してNPO法人HEROESを立ち上げました。HEROESは重度の障害者が日中に通う施設で、日常生活のトレーニングをしたり、働いたり、また遊ぶことも含めて、生活全般の支援をしています。

HEROESという名前には、「ひとりひとりが、その人の人生の主人公(ヒーロー)」という意味を込めています。障害があることで、自分の人生を自分のものとして生きていけない人がいる現実をどうにかしたい!と言うと大それたことになるんですけど、少なくとも寄り添って一緒に歩んでいくことはできるんじゃないかなと思っています。それが法人として大切にしていることですね。

 

事業写真

 

自閉症の方とビール作りって、意外な組み合わせですね。

HEROESは20代、30代の方が多く、働く場所の提供もしたいと思い、オリジナルの商品づくりを考えたときに、私たちや私たちの活動を感じてもらうには、日常的に消費されるものが良いと考え、また他の事業者さんと競合しないものがビールだったんです(笑) 商品を日々消費するたびにHEROESのこと、障害のある方のことを少し考えてもらえたら、買うことが役に立っていると思ってもらえたらというような、消費者との気持ちの繋がりが感じられれば素敵だなと思っています。

とはいえ、最初はビールづくりをしたいと言っても周りは否定的でしたね。そんな時、自閉症の研修会の企画会議の打ち上げの場で「自閉症の方とビールとか作れたら面白いと思うんですよね〜」と言ったら、そこにいた7人全員がやろうやろう!と言って賛同してくれて。酔った勢いではありましたが、そこからスタートしました(笑)その後、準備にまる3年かかるんですけど、やれるところまでやってみようという気持ちで挑んでいました。

他に、ビールを選んだ理由として、福祉っぽくないということもあります。昔ながらの福祉のイメージが障害者にマッチしているかというとそうじゃない部分もあって、そういった福祉観を変えていきたいという思いもありました。

 

ビールづくりの工程に、自閉症の方はどのように関わっておられますか?

皆さんに何らかの作業に関わってもらっています。醸造工程で材料を分けたり、鍋で煮たり、工程のほぼ全てに関わることができる利用者さんが一人います。他には、瓶の充てん作業に三人が携わっていて、重度な障害の方には瓶のラベル貼りやタグ作りをしてもらっています。

実は、四条河原町の京都マルイの地下にもうちのビールを置いてもらっているんですけど、それを見て感動して、もっと頑張ろうと思ってくれる自閉症の方もいますね。

ビールを始めてから、自閉症の人たちに工賃を月5千円くらい出すことができるようになりました。軽度の障害で醸造に関わっている方は月に6、7万円くらい収入を得ていますよ。将来的には、障害者年金とビールづくりの工賃を合わせれば、一人暮らしができるくらいにしていきたいですね。

ビールのタグ

 

地域のイベントなどに出店されていますが、どのように地域と関係を築かれましたか。

福祉事業は2013年からやっていますけど、あまり地域と繋がれていなかったのが実情です。2017年にビールづくりのテナントを借りて「来年夏クラフトビール始めます」の看板を出したんですね。そしたら西陣織業界の方達が「なんやお兄ちゃんビール始めるんか」と声をかけてくださるようになり、周りの方と交流が生まれるようになりました。週に一回やっているビアバーにも来てくださって、僕らの思いを話させてもらうとみなさん応援してくれて。地域の役員の方を連れてきてくださったりして、夏祭りや西陣の朝市マルシェにも呼んでいただきました。ビールを始めてからですね、地域との交流を始められたのは。

西陣マルシェ

 

西陣麦酒という名前に込めた想いを教えてください。

名前を考える時、京都以外の若い人に西陣がどれだけ認識されているのか不安で、「西陣」をつけるか悩んだんです。ただ、僕らは地域密着でやってきているし、この地域は西陣織の産地、つまり、クラフトマン、職人の町で、僕らのビール作りも職人の仕事、クラフトビールなんですよね。さらに支援という仕事も、職人的だと思っていて。西陣地域の職人気質の風土からして、これ以上いいネーミングはないということで西陣麦酒にしました。京都西陣もいいなとなったんですけどここはバシッと西陣で行こうと(笑)

西陣は、昔からある地域で、世界的なブランドでもありますが、一方で、クラフトビールは若者向けの商品なので、僕らが名前を付けていることで、今まで西陣に興味がなかった人たちが注目してくれたりすると嬉しいですね。

 

西陣地域についてどのように感じておられますか。

地域としては入ってしまえばすごく住みやすくて、子育てなどをするにはすごくいい土地だと思うんですよ。面倒見のいいおじいさんおばあさんもたくさんいて、地域コミュニティもできていますし。ただ、現状としては、働き盛りの世代が少ない印象で、これまで受け継いできたものが次の世代に継承していけるのかが大きなテーマじゃないでしょうか。僕らみたいに福祉をやっている人たちがコミュニティに関わっていかなければならないという使命感は抱いていますね。

また、西陣麦酒もそうですが、新しい取組が小規模ながらに生まれてくる町になってきている印象がありますね。西陣はハード面からして小規模でないと難しいというのはありますが、小さい取組がちょこちょこ出てくるのが西陣っぽくていいなあと思います。

 

これからの西陣麦酒の展開や、将来に向けての想いをお聞かせください。

やりたいことはいっぱいありますね。お店としては週に一回しかビールを提供できていないので、毎日開けられるようにしたいですね。場所としては、ビール醸造の場所が手狭になってきているのもあり、町家でできたらいいですね。お酒を飲む場について言えば、障害のある人がいてもあまり目立たないんですよね。ただ綺麗なだけの集まりじゃない、そういうぐちゃぐちゃっとしたような場も作れたらいいなと思います。

僕たちは障害のある人のためというのが一番なんですけど、地域をどう活性化させていくかということと、障害のある方が生きやすいまちにするというのがイコールになっていくと思っています。地域のユニバーサルデザインをしていくことで、地域の発展にも繋がるんじゃないかなと思いますし、そのためにも、西陣という地域に対して発信し続けていきたいですね。

(2019年10月21日公開)

タップルーム

※この記事は、京都産業大学からのインターン生、岡田千明さんが取材したものです。

詳細情報

企業名・団体名NPO法人HEROES
営業時間・定休日など西陣麦酒タップルームは毎週金曜日17時~21時
(休業の場合があるので要確認)
公式サイトhttps://www.762npo.jp
問い合わせ先NPO法人HEROES(電話 075-366-3627)
(京都市上京区竪門前町414西陣産業会館115)

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