「にし人」特別編 第2回「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)」 ~まちを思う気持ちが育む、西陣の魅力~
「最近お店が増えたね」
「あそこにも新しいお店ができるらしい」
暮らしているまちに新しい、人が集まる場所ができるのは嬉しいこと。プロジェクトやお店、コミュニティなどができてきて盛り上がっているらしい、という話をよく聞くようになった西陣エリア。町家などの歴史的な景観を残しつつ、あたらしく生まれ変わっていこうとする場所が増えてきているように感じます。
アップデートされつづけている西陣のこれからについて考えるイベント「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)」の第2回が2020年2月18日、京都信用金庫西陣支店2階の「クリエイティブコモンズNISHIJIN」にて開催されました。
「つぎにし」は、「西陣を中心とした地域活性化ビジョン~温故創新・西陣~」推進の一環として、西陣地域のネットワークをさらに大きくつなぎ合わせ、新たな展開を生み出していく基盤づくりを進めるために、西陣で活躍している人やチャレンジしたい人が一堂に会して交流する場として企画されました。第1回は、ものづくり、商店、まちづくり、文化芸術、学生など様々な分野から60名近い方々に参加いただき、12月に開催されました。
第1回の開催の様子はこちら
https://nishizine.city.kyoto.lg.jp/people/people-tsuginishi1/
(左からタナカユウヤ氏(司会/株式会社ツナグム )、(以下プレゼンター)葛西郁子氏、並木州太朗氏、川村哲也氏、松尾浩久氏、サイトC、角谷香織氏、菅真継氏)
第1回に引き続き開催された、第2回の「つぎにし」でも、「ツギニスト(つぎの西陣をつくる人や事業者)」7名がプレゼンテーションを行いました。本記事では、ツギニストが考える「西陣のこれから」を紹介します。
「西陣織の関連工、こんなにおもしろいのにどうして後継者不足!?」
葛西 郁子 氏(葛西絣加工所)
西陣で絣(かすり)加工の職人をしている葛西さん。絣加工とは、織物を織る前に絣の技法で糸に柄を作るというもの。葛西さんが手掛ける仕事は主に帯や着物が多いですが、世界的に活躍するファッションブランド・イッセイ ミヤケの2018年1月パリのランウェイで披露され、今も毎シーズンISSEY MIYAKE MENのコレクションに関わって絣加工を提供されています。また、仲間と「いとへんuniverse」という活動もしていて、西陣織やそれにまつわる技術の可能性を伝えています。
葛西:西陣織というのは職種が細分化されていて、分業制で成り立っています。西陣を昔から支えてきた産業だけあって、西陣織のことをご存知の方も多いと思います。しかし、絣加工の職人は6人だけで、わたし以外は70代以上。絣の職人だけでなく、どの専門職人も後継者不足です。西陣織は世界的にみても類をみないテキスタイル。そういう仕事を支えさせてもらっているというエネルギーをもらえるのも、やりがいの一つです。職人と聞くとその土地で生まれた人や、その文化を身近に感じて育った人がなるイメージもあるかもしれませんが、わたしは青森出身。仕事を通して京都や西陣に馴染むこともできましたし、その恩返しとして西陣織を守りつつ、若い方々にも興味を持っていただけたら嬉しいです。
葛西絣加工所:京都市上京区中書町
いとへんuniverse:http://itohen-univers.com/
「10歳からの社会人教育」
川村哲也 氏(株式会社COLEYO)
リクルートを経て株式会社COLEYOを立ち上げた川村さんは、“教えない先生”をしているそう。教室では子どもたちそれぞれがプロジェクトを持って活動していて、ペットの葬儀キットをつくってネットで販売する子、研究論文を書く子、野良猫の写真集を作る子と、それぞれ個性が光ります。
川村:学校だと基本的に“よーいどん”で同じことをして、それを上手な人や正確にできる人が評価されます。でも、世の中に出るとそうでもない。自分の持っている才能をどう世の中の役に立てるかが大事です。教育とは、社会の中でそれぞれの役割を担える人を育てるということ。今の場所で教室を始め、去年10月には立命館大学に姉妹校ができたり、寺社仏閣でロボットを使った教室をしたりと活動を広げてきました。ただ、教室が西陣にあるにもかかわらず接点をあまり持ててきていなかったので、西陣のいろんな人と関わりながら教育をしたり、生き方を見せたりすることができれば理想です。
株式会社COLEYO:https://www.coleyo.info/
「観光と文化を育むための稽古場」
サイトC
今年の1月、西陣エリアの銭湯の一角にスペースを構えたばかりのサイトC。まち歩きが好きなことや観光ガイドの需要などもあって、まち歩きスタッフを経て京都市認定通訳ガイドの資格をとることに。そこで、京都の観光地の混雑問題に直面したことがきっかけで、解決策になればと、観光について考える場である「サイトC」を始めることにしたそうです。
サイトC:ガイドとして案内する時に、混雑したところに胸を張ってお客さんを連れていけるかな?と思ったんです。混雑する有名観光地以外にも魅力的な場所はたくさんあるので、サイトCのスペースをインフォメーションセンターのように本や雑誌の充実をさせることはもちろん、ローカルな情報を交流する中で活用できる場所にしたい。ある場所でイベントができそうだとか、人手が必要なところがあるとか、日常の延長として観光文化を考えていける場所にできたらと思います。観光は上手く活用できれば地域にとってもいい効果をもたらすもの。観光のツールとして、地域づくりはもちろん、ツアーなどの観光産業を通して地域の問題を解決することができたらと思っているので、力を貸していただけると嬉しいです。
サイトC:https://twitter.com/sitec_sightsee
「地獄から見えた一筋の光」
菅真継 氏(まるごと美術館)
まるごと美術館を運営する菅さんは、西陣生まれ。当初はお寺のルールや勝手が分からず、協力していただく寺社の方々とも上手くいかなかったそうです。しかし、その中でも何か関係性やきっかけをつかもうと、1年ほどお寺で草むしりなどの雑用をしながらお寺や地域と共存できる可能性を見出すことに成功。結果、寺社の環境に寄り添うスタイルのイベントとしてまるごと美術館を立ち上げました。
菅:まるごと美術館は、寺社仏閣や町家と合同で開催する展覧会。西陣にはモノ、場所、人も含めた「本物」がたくさんいます。しかし、衰退傾向にあったり、人が来なかったりするのはソフト面が弱いからだと考えました。ソフト面とは、イベントや展覧会、お祭りなどのことです。まるごと美術館をはじめて3年ですが、去年の秋に10ヶ所合同で1万人以上の方が西陣に足を運んでくれました。ある寺院では、年間2500人の来場者だったのが1万人にまで増えて。次の目標として、来てもらった人に更に西陣を楽しんでもらいたい。地域のお店や企業と連携して、地域の活性化に貢献したいです。
まるごと美術館:https://www.kyoto-marugoto.com/
「畑から食卓へ、食卓から畑へ〜振り売りコミュニケーション〜」
角谷香織 氏(Gg’s / 晴れときどき雨、のちお野菜)
角谷さんは上京区生まれ、西陣で育ち、一人暮らしをはじめてからも西陣で暮らしています。日曜日には店舗で京野菜の販売をしていて、他の日には京都の生産農家さんのところに野菜を取りに行き、飲食店舗や家庭に届けています。
角谷:振り売りをやってみて、京都の町の規模にあった商売だと思いました。京都市の中心部から上賀茂や大原などの畑まで、ほとんど30分以内。新鮮な野菜が手に入る距離の魅力はもちろん、お客さんと直接顔を合わせることができるのが魅力です。注文があるから持っていくだけではなくて、販売の度に直接出向いて「今日は何いりますか?」って聞くところから販売が始まります。
お客さんが決まっているので在庫を無駄にもたなくてもいいし、家族みたいになりながら販売できる。振り売りは農家さんとお客さんの距離が近くなるからこそ、美味しいという感想だけでなく、今年はイマイチやなって言われることもある。それを聞いて農家さんがもっと頑張ろうってなって、文化的な意味で京都の野菜の美味しさは磨かれていったんだなと感じています。文化的に磨いていくことは、大きくしないからこそできること。もちろん商売として成り立つ大きさを決めることは大事で、その中で密に、濃く強くしていくことが私はかっこいいと思っています。西陣にいるいろんな方と、この場所で、密な関係を築いていきたいです。
Gg’s / 晴れときどき雨、のちお野菜:http://ggs-kyoto.com/
「共に学び、新しい西陣体験をデザインする」
並木州太朗 氏(NISHIGENE Lab)
Impact Hub Kyotoなどで構成されるCo-Lab Kyotoという団体でNISHIGENE Labを運営している並木さん。Co-Lab Kyotoは多彩なネットワークを生かして、様々なソリューションや多様なセクターと地域を結び付けて、課題解決や地域のイノベーション発掘を行っています。相楽郡や京丹後エリアでの活動を経て、今年度から活動エリアを自身の拠点である「西陣」に据えて地元の魅力を改めて掘り起こす取り組みをスタートしました。それが「NISHIGENE Lab」です。
並木:NISHIGENEは、西陣に受け継がれた遺伝子を経糸(たていと)、クリエイターや起業家などの新しい遺伝子を緯糸(よこいと)と見立ててそれをつむぐこと、学び合いを通してプロジェクトを展開するというコンセプト。具体的には、文化的な地域資源の活用方法を考えるために講座、ワークショップなどを通して西陣の魅力を今までとは違った視点で発掘します。伝統産業を普通に学ぶだけでなく、それを受け継いでいくために新しいテクノロジーをかけ合わせる試みとして3Dプリンターで西陣織の道具を作るなど、様々なプログラムを予定しています。他にもいろいろなイベントを予定しているので、みなさん力を貸していただきたいです。
NISHIGENEの一員でクリエイターの中家さんも、「これから始まるプロジェクトなので未熟な部分も多いですが、グローバルコミュニティとつながりながらプロジェクトができる点に可能性を感じていただけたら」と話します。それぞれがやりたいプロジェクトを持ち込んで、一緒につくりあげることができる場になりそうです。
「西陣にクラフトビール工場が!?マイクロブルワリー西陣麦酒」
松尾浩久 氏(NPO法人 HEROES / 西陣麦酒)
松尾さんはNPO法人HEROESで障害のある方への福祉サービスにまつわる仕事をしています。活動の中で、自閉症の方とビールをつくろうというのがきっかけで2017年に西陣麦酒を立ち上げました。
松尾:障害のある方に雇用や仕事、場所を創出することを目的として立ち上げたのが西陣麦酒です。西陣織会館西側のテナントに工場併設のビアバーがあり、毎週金曜日だけ営業しています。現在は、醸造や商品ラベル貼り・出荷の作業などをHEROESの利用者さんに手伝っていただきながら一緒にビール作りを行っています。西陣麦酒には定番のビールが3種類あり、もうすぐ5種類に増える予定。季節ごとに限定ビールもあります。せっかく西陣の地で活動しているご縁もあるので、実は今後、桑の実ビール作りをしたいと思っています。西陣は昔から絹を扱っている関係で蚕が食べる桑に馴染みがあるとのことで、まだ構想段階のプロジェクトですが、(桑の実ビール開発の)知恵やお力を貸していただきたいです。この活動を通して地域の方に、障害のある方への理解を進めるだけでなく、様々な人が地域で生活しているという町の中で西陣を盛り上げていけたらいいですね。
西陣麦酒(特定非営利活動法人HEROES):https://www.762npo.jp/
「西陣のこれから」
プレゼン終了後のワークタイムでは、ツギニストの方々を中心に数人ずつで円になって交流をしました。感想やアイデアの共有をしたり、自分と西陣の関わりを「西陣×○○」と書いてもらって発表をしたり。織物やファッション関係で活動している方が集まったグループでは、お互いの活動紹介に刺激を受けたり、新たな展開に向けた意見交換も。また、西陣の活性化をみんなで考えるうち、西陣フェスができれば…という話で盛り上がり、近いうちに実現されそうなほどの勢いと熱量がありました。
第1回のつぎにし開催後も、ツギニストのお店を参加者が訪問したり、参加者の協力で新たなイベントの企画が進んだりなど、つぎの西陣へと進む活動が増えています。つぎにしを通して「自分ごと」「みんなごと」としてまちを知ることで、「自分にもこんなことができるんじゃないか」「それなら知ってる」と交流の中で新しい発見をしていく人も多かったように思います。まちの中で、まちに関わりのある人たちと交流することでまちのために、そして何より自分のためにできることがあるのだと改めて感じました。
筆者自身、京都生活は5年になりますが出身は地方。なんとなくのイメージで「生粋の京都人ではないから馴染めるかな……」という不安がずっとありました。でも西陣で暮らし、西陣の人たちと交流する中で、自分に何ができるかを考えたり、西陣が好きだからこそ何かしたいと話したりすると、みなさん喜んで受け入れてくれました。まちと人との関わりが相乗効果を生み、どんどん新しくなっているのが西陣の良さであり、強さです。人はまちのために、まちは人のために、「自分ごと」「みんなごと」として、西陣はアップデートされ続けるのだと思います。
(Nana Takahashi)