にし人西陣のひと

刻絲苑石川つゞれ株式会社代表取締役 河津英樹さん、爪搔本つづれ織職人 橋本知代子さん

西陣爪掻本つづれ織の伝統技術にこだわったつづれ帯織元、刻絲苑石川つゞれ株式会社代表取締役 河津英樹さん、爪搔本つづれ織職人の橋本知代子さんにお話を伺いました。

石川つゞれ様について教えてください。

昭和3年に先々代の石川正が創業しました。

西陣の中でも、御室・衣笠と言われる場所、衣笠小学校の北側に「石川つゞれ」はあります。金閣寺、北野天満宮、仁和寺にほど近く、春は梅や桜、秋は紅葉と京都の四季を満喫できる風光明媚な環境です。

1階は事務所、商談スペース、2階が工房となっております。工房見学会も開催しており、今年(2021年)8月には、ギャラリースペースとして職人たちが手掛けた作品をご覧いただけるようにリニューアルしたばかりです。

「爪掻本つづれ織(つめかきほんつづれおり)」にこだわり、本つづれ帯、富久紗(ふくさ)、壁掛等の製造をしております。過去、皇太子殿下の御成婚を祝し、富久紗「白鳳」を献上したこともあり、品質や技術には自信を持っております。

西陣爪搔本つづれ織とは、どういった技法なのでしょうか?

「西陣爪掻本つづれ織」は、人の指先をやすりで削り、ノコギリ状の爪先を道具として横糸を掻き寄せて織り上げる織物です。厳選された絹糸、織機、道具を使い、卓越した技術を持つ職人が自らの爪をくし代わりにして織りあげていくのです。

古くから、皇族、貴族、神社仏閣の装飾品として、高い品質を誇る織物とされてきました。とても緻密で、品質の高い織物です。

石川つゞれでは、「古来からの伝統技術を伝承していく。」ということを大切に継承しております。

つづれ織りで表現する作品ひとつひとつには意味があり、日本文化そのものが詰まっています。

幸せを願う松竹梅などの吉祥文様、格式を重んじる正倉院などの古典文様など、その意味を深く理解して、丁寧に作り込んでいきます。使う人の人生とともに歩んでいけるようにと考えております。

西陣織の中でも特殊な織物ですが、伝統をどのように守られているのでしょうか?

西陣織の中でもつづれ織りは、‘人の動き’のみで織る特殊な織物です。

伝統技法を受け継ぎ、守り、育てるため、海外での生産などを行わず、伝統技術を継承し、意欲的な創作活動を続け、高い評価をいただいております。

織りあげていくために、糸、染めなどそれぞれの工程の職人が関わっていますが、大量生産は出来ないのでそれぞれの織屋の規模は小さいです。ですので、関連企業と横のつながりを大切にしています。

京都西陣の爪掻本つづれ織の織元14社と糸屋、染め屋、金糸屋さんなど関連企業14社で構成される「京都綴会」では、後継者育成と技術向上を目指して講習や会合、作品発表の機会を設けています。

横のつながりを大切にしながら、ビジネスをすることは珍しいのではないでしょうか?

「西陣爪搔本つづれ織」は100年以上の伝統技法を守り作られています。

国の経済産業省の「伝統工芸品」の指定を受けており、一点一点、検査を行い、つづれ織帯の基準を満たしたものに伝統証紙が貼り付けられます。昭和54年には12000反あったものが、残念ながら令和元年には200反に。さらに令和2年にはさらに落ち込んでいるという状況です。

石川つづれでは、このうちの比較的大きな数をしめさせていただいてはおりますが、需要が減っているのは顕著です。昨年からは京都綴会の会長もしておりますが、何とかつづれ織りを守っていくために連絡を取り合おう、競争力をつけ高めよう、時代の変化に応じた提案をしていこうと思っております。

西陣のまちでつづれ織を続けていく想いをお聞かせください。

実は、私の前職は全く違うものでした。ですが、違ったから気づくこともありました。

爪搔本つづれ織を目の当たりにしたとき、とても感動したことを覚えています。と同時に、「今の時代、こんなに効率の悪いものはない」と思ったのが正直な感想です。西陣織について詳しく知った当時は、好景気で帯が売れていた時代でした。効率と量産性を求めてジャカード織を導入している織元も多くありました。そんな中、時代の変化に屈することなく、つづれ織一筋で貫く先代の姿や、真剣に向き合い織っている職人の姿を見て、「つづれ織がすごいものだということを、もっとたくさんの方に知っていただきたい」と思いました。

出会ったのが「つづれ織」だから、今の自分がいます。これからもこの地「西陣」で、続けていきたいです。

 

【爪搔本つづれ織職人の橋本知代子さん】

橋本さんはなぜつづれ織の職人になろうと思われたのですか?

私は、宮崎県出身なのですが、織物に興味があり、思い切って工房見学をさせていただけないかと電話をしました。当時、職人の募集などはしていなかったのですが、見学を快く受け入れてくださり、すっかり魅了されてしまいました。

織り上げていくのに、大変な時間と労力をかけて制作をされていると思いますが、大切にされていることは何でしょうか?

「どう表現していくか」は、いつも頭を悩ませる部分です。平面でありながら立体的な表現を可能にできるのがつづれ織の魅力です。織るためには全体像の図案があり、配色指示があります。ですが、つづれ織ならではのグラデーションや色の濃淡は織り手にかかってきます。織り進めるとほどくことができませんので、集中して進めていきます。

また、最近強く感じていることがあります。それは、私はつづれ織りを織らせていただいておりますが、この工程にくるまでも、織り上ってからも、多くの方が関わっておられるということです。皆様の想いを織らせていただいている、ということを大切にしております。

女性が働く環境として「職人」の職業はいかがでしょうか?

つづれ織の職人は、自身の爪がくしに代わる道具なので気を使わなければならない部分もあります。ですが、朝も一般企業と同じくらいの時間帯にお掃除から始めて、広いスペースで集中して織らせていただいています。職住近接の環境で住まわせていただいており、お昼ごはんはみなさんと一緒にいただいています。地方から来られた方は家で織るという職人さんもおられますが、西陣にあり、伝統工芸士がいて日々学ぶ機会があるという環境は私にとって大事で、とても良い職場環境だと思います。

今制作している作品は幅が広いため、大きな機で織っています。そのため、少し力が必要な部分もありますが、それを苦と感じたことはありません。「職人」という職種の同世代の仲間はもともと数が少ないので、輪が広がるといいなと思います。

今後の目標、挑戦してみたいことなどをお聞かせください。

職人歴10年になりました。

最近は織るだけでなく、様々な仕事をさせていただいております。それを通じて、一本の帯には、たくさんの方が関わっているということを強く実感しております。重複してしまう部分もありますが、だからこそ、関わる皆様の想いを大切にしなければならないし、その先にあるお客様のことも思い、織っていきたいと思います。

いろんなものを見て、吸収して、技術をつなげていきたいと思います。まだまだ学ぶことが多く、これからはもっと視野を広げて、色んな引き出しを持ち、表現の幅を広げていきたいです。

 

(インタビュアー be京都 岡元麻有)

 

詳細情報

企業名・団体名刻絲苑石川つゞれ株式会社
公式サイトhttps://tuzureori.com/

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