「にし人」特別編 令和3年度「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)②」開催レポート〜つぎにし3年目の終わりとこれから〜
古くから続く温かな歴史を受け継ぎながら、新しい出会いや活動が次々と生まれている西陣。
そんな共創のきっかけのひとつになればと、「つぎの西陣をつくる交流会」、通称「つぎにし」は2019年にスタートしました。
3年目となる令和3年度のテーマは「知る→動き出す〜キッカケの場〜」。2022年1月29日に開催された第1回の交流会では、全国から参加の約50名がオンライン上で一堂に会しました。
令和3年度第1回のレポートはこちら
https://nishizine.city.kyoto.lg.jp/people/people-4660/
第2回となる今回も、第1回と同様にzoomを活用して、2月17日にオンライン開催。全国各地から集まったのは、約50名の参加者。前回から継続して参加された方も、今回が初めましての方も入り混じって、盛り上がりを見せました。
交流会の最初はグループに別れて、5分間の自己紹介タイム。「今日の交流会に期待すること」などを共有し合いました。様々な場所から集った皆さんが、お互い顔見知りになったところで、オープニングトークのスタートです。
オープニングトーク
菅真継氏(まるごと美術館実行委員会代表)
寺社仏閣の特別拝観に合わせて、2017年から毎年春と秋に開催されている「まるごと美術館」。初年度の「つぎにし」ではプレゼンターを務めてくださった菅さんが、今回のオープニングトークに登壇。プレゼン後の活動の展開と合わせて、お話しいただきました。
菅:私たちがミッションに掲げているのは「まちに文化的・経済的な賑わいを創造する」こと。そして、地域のコーディネーターとしての役割も果たすべく、活動を続けています。
2017年の秋からスタートした「まるごと美術館」は、初回は3つの会場で開催し、来場者は約5,000人。そこから毎年春と秋に継続して開催した結果、2019年には10会場で来場者が11,000人を超える盛況となりました。コロナ禍の2020年には、開催の是非も含めて対策をメンバーで深夜まで議論しました。2021年には展示だけでなく、パフォーマンスなども取り入れ、オンラインとオフラインの表現の可能性を探っています。
私たちが心がけているのは、イベントを開催して終わりにするのではなく、文化・経済のハブとなれるような取り組みにつなげていくこと。地域や人との関わりを増やし、皆さんの今後につながる動きを展開していけたらと思います。
参加する条件も、学生だからお断り、プロでなければ駄目というわけではありません。このエリアに興味を持ってくれた方なら、どなたでも歓迎ですし、みんなが活躍できる場所をつくれたらなと思っています。
トークが一息ついた後は、つぎにし運営の株式会社ツナグム・タナカユウヤ氏から質問が投げかけられました。
タナカ:活動を続ける中で、大事にされていることはありますか?
菅:とにかく動くことでしょうか。やりたいと思ったら、まわりを巻き込んで、お願いをしていくことが大事です。活動を続ける中で、辛いこともありますが、皆さんもめげずに続けてほしいなと思います。
タナカ:これからの西陣は、どうなっていったら良いと思いますか?
菅:魅力的な人や場所は、私たちだけでは拾いきれないくらい、たくさんあります。みんなで一緒に発信していけば、もっと地域が賑わっていくのではないでしょうか。今は地域で活動を行っている人が少数派で、されていない方が大多数だと思います。もしこれが逆転すれば、ひとりひとりの負担も減りますし、西陣が更に面白くなっていくと確信しています。
タナカ:今回参加されている方に、なにかメッセージはありますか?
菅:地域で活動する人が増えていくことが、西陣に関わるきっかけを増やしたり、町の可能性を引き出していったりするひとつの要素になるんだと感じました。一緒にもっと面白いことをアピールしたり、発信したりしながら、みんなで楽しい町をつくりあげていけたらと思います。
まるごと美術館:https://www.kyoto-marugoto.com/
プレゼンテーション
菅さんのオープニングトークの後は、6組のプレゼンターの皆さんから、それぞれ7分ずつ発表をしていただきました。
①障害のある子どもたちが幸せに暮らせる地域社会を西陣から創る
益川恒平氏(小児用補装具専門(株)ゆめ工房)
義肢装具士の国家資格をもつ益川さんは、生まれも育ちも上京区。2018年7月に起業し、子ども専門の義手や義足、車椅子などを製作しています。工房がある北野商店街という立地を活かした、これからの活動について語ってくださいました。
益川:子ども専門の補装具の工房は珍しく、これまで新聞やラジオなどに取り上げていただきました。そして本業以外にも、子ども用品の交換会や里親の啓発活動、フリーマーケットなど、商店街ならではの企画にも取り組んでいます。
また今年の春から、商店街内のより大きな物件を拠点にすることを決めました。今後はこの拠点を中心に、障害のある皆さんのニーズに対応できるようなインクルーシブ(=包括的な)商店街づくりや、障害のあるこどもやご家族のための「補装具情報ウェブサイト」の運営、障害のある子どもたちや関わる人たちのためのアイテムの展示会などにも取り組んでいきたいと考えています。
ものづくり、福祉、商店街の3つをかけ合わせ、一緒に妄想し、構想し、暴走していきませんか?まずは気軽にお店に来てください!
ゆめ工房:https://yumekobo-kodomo.jimdofree.com/
②牟岐町魅力発信プロジェクトin西陣
齋藤颯汰氏(京都産業大学 現代社会学部 木原ゼミ)
徳島県の南部にある牟岐町(むぎちょう)の魅力発信を、大学のゼミで取り組んでいる齋藤さん。現地でフィールドワークを行うはずが、コロナ禍の影響で、京都にいながらの町の魅力発信に予定変更。しかしそれが西陣への出会いと、新たな活動に結びつきました。
齋藤:牟岐町で有名なのが、「実生(みしょう)ゆず」。種から18年かけて無農薬で栽培したゆずで、香りが強く、自然な甘みを持つのが特徴です。
これらを使ってどうやって京都で活動をしていこうか悩んでいたとき、「西陣connect」に牟岐町と関係を持っている方がいらっしゃると聞き、お会いしてアドバイスをいただきました。また、大学のサテライトオフィスである「町家学びテラス・西陣」を使って、試食会を企画。こうして、週1回ほどのペースで西陣に通うようになりました。
西陣でのマルシェに参加したり、「スペースたて680」のイベントにも出店したりしています。2021年12月には、牟岐町の方が西陣を訪れてくださいました。今までは牟岐町のことを西陣で発信してきましたが、これからは西陣をもっと知り、一方通行でなく双方向のつながりをつくっていけたらと思います。
木原ゼミ:(Instagram)https://www.instagram.com/copula_ksu/
(Twitter)https://twitter.com/copula_ksu
③-N180-西陣織の新しい活動とその目指す先
今河宗一郎氏(N180)
西陣織を手がける今河織物で、代表取締役を務める今河さん。洋服のブランドはたくさんあるけれど、着物はあまりないと感じ、「ちょっとよそにない」をコンセプトにしたものづくりを続けてきました。そして、新しい活動を次々と構想し、実行しています。
今河:伝統産業に、どこか保守的なイメージを持っている方もいると思います。そんな印象を変えたいと、同業者の3人と一緒に「N180(ニシジン・ワンエイティ)」というグループを立ち上げました。
コロナ禍で様々な活動をしてきましたが、効果をあげているのがYouTubeでの発信です。ファッションショーのプロデューサーから、早く美しく着替えるための着付け術を紹介していただいたり、台湾のイラストレーターに描いていただいたキャラクターとのコラボを紹介してみたりと、私たちがやりたいことをどんどん紹介していく場として活用しています。
また、様々な専門家と対談をしていく、新しいチャンネル「クラフト魂(だましい)」も立ち上げました。さらに、応仁の乱から今年で555年であることを契機に、私も所属している西陣織工業組合では「西陣 555」という事業も展開していきます。私も委員の一人として関わっておりますので、地域の皆さんからの協力もお願いしつつ、ワクワクすることを一緒にやっていけたら嬉しく思います。
N180:https://nishijin180.localinfo.jp/
(YouTube)http://www.youtube.com/channel/UCCJPY4ZD9dMUMyar5vWrwgg
④西陣に住んで気がついた、これから届けたい「組子細工がある暮らし」
山下りか氏(J LIFE gifts)
組子細工インテリアブランド「J LIFE gifts」を立ち上げた山下さん。出身は、静岡県の浜松市。進学をきっかけに京都に住み始め、一度は離れたものの、2017年に再び京都に移住。2021年6月、元西陣小学校の目の前に、ショールームをオープンしました。
山下:組子細工は、飛鳥時代から伝わる伝統技術。ショールームでは組子細工のキットを使い、ワンコインから楽しめるプチワークショップを開催しています。
これからは西陣で体験の循環を作るために、2つのことに挑戦したいと考えています。一つ目は、体験案内人。ワークショップの前後の時間に、お客様に西陣の町や人、お店などを体験してもらうことで、より有意義な時間を過ごしてほしいと思っています。二つ目は、西陣の素材を集めた体験キットの開発。例えば組子細工を、西陣でつくられた便箋・封筒、シールなどで提供することで、より西陣らしさが感じられるお土産になったらと考えています。
引っ越しをしてくる私のように、西陣を遠く感じていた人が組子細工を入り口として西陣を知り、そして西陣の風景の一つとして組子細工を思い出してもらえたら嬉しいです。町の風景になれるようなお店づくりを目指して頑張っていきたいと思います。
J LIFE gifts:https://www.jlife-gifts.jp/
⑤公園を中心としたコミュニティづくり
岡山泰士氏((株)一級建築士事務所 STUDIO MONAKA)
建築設計事務所の共同代表を務める岡山さん。「つぎにし」開催当日には、ロゴとホームページをリニューアル。建築を切り口にして、様々なコミュニティ活動に取り組まれています。
岡山:MONAKAのスタートは2012年。最初の事務所は、千本中立売の織屋建(おりやだて)と呼ばれる京町家でした。2016年には千本北大路に移転。道路に面したオープンスペースを活用し、自分たちから町に出ていくような姿勢で、カラオケ大会や展覧会などを企画しました。
そして2022年には、船岡山公園の管理事務所をお借りしました。地域のコミュニティスペースとして利用したり、倉庫を地域の循環センターとして活用したりと、ひと・こと・ものが動いていくような仕組みを整えて、公園を中心としたカルチャーをつくっていきたいと思っています。
グランドオープンは、今年の4月。今は情報収集をしたり、仲間を募集したりする時期です。既に公園内の事務所には、平日であれば常にスタッフがいます。公園を活用した事業を思いついたり、マルシェをやってみたいなど、何か一緒に企画ができそうな方は、いつでも遊びに来てください。
STUDIO MONAKA:https://studiomonaka.com/
⑥SNS・質の良いフォロワーの重要性
牧野唯仁氏(株式会社レプス)
プレゼンターのトリを務めたのは、企業のSNS運用をサポートしている牧野さんです。「フォロワー数の増加だけでは、売上アップにつながらない。フォロワーをファンにすることが重要」とお話しいただきました。
牧野:SNS運用の事例では、今、西陣の「大橋弌峰」という人形屋さんのお手伝いをさせていただいています。
最初はTwitterのフォロワーが30人ほどでしたが、1年が経過した頃には2,000人以上になりました。HPのアクセス数が増えて、実際の雛人形の購買につながったり、テレビの取材が入ったりといった成果が出ています。投稿内容の工夫もしましたが、一番大切なのは「継続は力なり」ということ。継続するからこそ、フォロワーが評価してくれます。
また、昔は「10,000フォロワーで100いいね」が良いとされてきましたが、今は「100フォロワーで100いいね」の方が価値があると思います。
西陣にちなんだハッシュタグとして、「#毎月24日を西陣の日と言いたい」というものがありますよね。ぜひどんどん活用して投稿していきましょう。そしてハッシュタグを見かけたら、いいねやリツイートを押し合っていきましょう。今から取り組んでおくことで、もしかしたら今後、大きな盛り上がりやつながりを生んでいくかもしれません。
株式会社レプス:https://lep.jp/
質疑応答・感想共有タイム
6名のプレゼンテーションが終わった後は、質疑応答と感想共有の時間。zoomのブレイクアウト機能を活用し、6つのグループに分かれて、2回の交流タイムを設けました。1回目はランダムに振り分けられたグループで、2回目は自由に行き来ができるかたちで意見を交換。「感想やコメントをいただけて、事業の参考になりました」と、プレゼンターからは感謝の声も。21時のイベント終了時間いっぱいまで、それぞれの出会いと気づきを楽しみました。
京都市では平成31年に「西陣を中心とした地域活性化ビジョン〜温故創新・西陣〜」を策定し、活性化の取り組みを推進してきました。長い歴史を持つ西陣ですが、明確にそのエリアが決まっているわけではありません。だからこそ余白が広く、多様な人が混ざり合うことで、新しい共創がうまれていきやすいのだと思います。
「つぎにし」を通して西陣を知り、新しい活動が動き出し、それを知った人たちがつながっていく……。これまで1年、2年と紡いできたつながりは更に太さを増し、素敵な循環へと発展しています。
3年目の活動が終わりを迎えようとしている「つぎにし」。
今年度の「キッカケ」からも、きっとまた、新しいつながりが生まれていくのだと思います。