西陣で続ける意味がきっとある
~西陣から、モノづくり手と若者をつなげる~株式会社APPRE-ART 代表取締役松田沙希さん
今回は、平成30年10月に千本通にカフェSenbon Lab.(せんぼん らぼ)をオープンされた、株式会社APPRE-ART(あぷりあーと) 代表取締役 松田 沙希さんにお話を伺いました。
どんな想いでSenbon Lab.をはじめられたのですか。
自分と同世代の若者が、気軽に伝統産業、伝統工芸を楽しめる空間やコンテンツを作りたいと思って、Senbon Lab.を立ち上げました。
伝統産業、伝統工芸は、非日常的な特別なものとして扱われがちですが、元々は日常に馴染んでいたものです。それを今の若者の日常に馴染ませるにはどうしたらいいか考えたときに、自分の海外経験やSNSでの流行から学ぶ若者が親しみやすい世界観を作ることや、また、若者が集える場にしたいという想いもあり、カフェだけではなく、オープンスペースも設けました。
なぜ伝統産業やものづくりに着目されたのですか。
元々、自分自身で洋服などを作ったりすることが好きで、技術を持つ職人さんの技やその作り出すモノに憧れがありました。職人さんの技は、日本の文化を築いてきた誇るべき財産であり、尊敬しています。そして、そういったものが徐々になくなりつつある現状にどうにか歯止めをかけることができないかという想いがありました。
一方で、大学時代にファッションショーに携わり、ファッション業界からの視点でものを見るようになった時に、ファストファッションの労働環境に興味が沸き、東南アジアに足を運ぶ中で、逆に自分の国の伝統産業、伝統工芸に注目し、まず身近なところから何か挑戦できないかと考えました。
御自身も、作り手として、刺繍を学ばれているそうですね。
私のキーワードとして幸福度というものが常にあり、自分の好きなウェディングドレスで人の幸福度を高めるお手伝いをしたいという想いで就職活動をしていました。
そんな時にオートクチュールのコレクションと西陣で営まれている刺繍を比較する番組を見てこれだと思いましたね。オートクチュールの刺繍の技術を身につければ、自分が好きなウェディングドレスの世界観を、京都をはじめとする日本の優れた素材、例えば、丹後のちりめん、西陣織、漆、陶器のパーツなどを使って作れるのではないか、そうすれば、今まで興味があまりなかった方にも楽しんでもらいやすくなるかもしれない。そんな日本の技を活かしたモノづくりに、私自身が挑戦したいと思いました。
その後すぐに色々と調べ、パリのアトリエがやっている学校に刺繍を学びに行く決断をしました。
どうして西陣での起業を選ばれたのですか。
就職活動の時に、私のやりたいことと、目指していた業界の成長規模感などがあっていないと言われたことや、オリンピックを控えていること、刻々と消えつつある技や職人がいる中で、どこか企業に就職して何年後かに起業するのでは遅いと感じていました。そして、フランスから帰ってきて、一旦、テクノロジー系のスタートアップ等をサポートする会社に就職したのですが、大きいプロジェクトに触れたりする中でいろいろ一通り勉強して、その後、ドレスの新規事業を立ち上げようとしたときに、起業を薦められて。元々、父も自分で会社を営んでいたので、そういったマインドを受け継いでいる部分もあると思いますね。
実は、ひいひいおじいちゃんくらいの代には、西陣でちりめん問屋をやっていたらしく、それもありますが、やはり西陣は、織元さんや機屋さんが当たり前にある環境で、西陣織が好きな私にとってこんなに最高な環境は他にはありませんでした。早速西陣織に関わるプロジェクトに入れたり、刺繍の経験を活かす場面もあったり、日々様々な織物を実際に見て学びを深めながらチャレンジでき、この地でやるメリットは絶対あると思います。
職人さんへの想いはありますか。
ファッション業界のメゾン(アトリエ)で働く方たちに対して、圧倒的な憧れや尊敬の気持ちを持っていますし、私も人生が2つあるならそこで働きたいと強く願います。日本でも、職人さんがきちんと評価され、技をしっかりと受け継いで、技術の高いものを世に送り出せるような仕組みができればと思いますね。
また、私自身、自分のような需要を創出する側の立ち位置が増えれば職人さん正当な対価を得ながら仕事を続けることができる、人の人生にかかわる仕事をしている自覚があるので、責任感を持って向き合いたいと思っています。
伝統工芸はどうすれば若者や学生に広がると思いますか。
若者や学生に対しては、大人発信よりも、同世代発信にしたほうが共感を呼ぶし、お互い仲間意識をもって一つのコミュニティができるのではないかと思います。その後ろに、サポートという形で大人たちがバックアップするのがいい形かなと。
私の感覚的には、若者で伝統工芸に興味があり、知りたいという人は増えていますが、職人になるかと言われれば、そうではなくて、どちらかといえば、プロデュース側の関心かなと思います。
でも、職人さんがいなかったら、いくらプロデューサーがいても成り立ちません。その仕事に就きたい人を増やすためにも、子どもの頃から自然と伝統や地場産業に触れるような環境を作ったり、京都のものづくりを学べる環境を整えることが大事だと思います。
Senbon Lab.の今後の展開や、西陣への想いをお聞かせください。
Senbon Lab.としては、ようやく取り扱わせていただける商品が増え、オンラインショップも立ちあげ、私の取り組みとしては若者向けに西陣織を活かしたパンプスなどの商品開発もできてきたので、これからも若者に届くような伝統・地場産業を意識しながら進めていきたいと思います。
もう一つ、場の活用としては、Senbon Lab.を寺子屋的な学びの場にしていきたいですね。若者は、伝統産業、伝統工芸に興味はあっても入り口がせまいので、若者たちが気軽に立ち寄れ、伝統産業の世界を知ることができる仕組みを作れればと思います。そんな中で、試作の段階では撮影や情報発信などを外注せずに自分たちで担えるようにスキルを身につける講座なども開催していきたいですね。
西陣には、ここにしかない素晴らしい技術があるので、それをもっとオープンにできればと思います。オープンイノベーションと言っていいか分かりませんが、もっとオープンに、フラットに色んな人たちが気軽にチャレンジできるような環境づくりができればいいですね。
(2019年3月25日公開)
詳細情報
企業名・団体名 | 株式会社APPRE-ART |
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営業時間・定休日など | 営業時間 11:30 -18:00 定休日 月曜日(但し、月曜日が祝日・休日の場合は水曜日にお休みと致します。) |
公式サイト | https://www.senbonlab.com/ |
問い合わせ先 | Senbon Lab.(せんぼん らぼ) 電話 075-468-1263 |