にし人西陣のひと

西陣で続ける意味が、きっとある。
~文化を繋ぐ場所を守る~
公益財団法人有斐斎弘道館 館長濱崎加奈子さん

 

今回は、「京都市西陣を中心とした地域活性化ビジョン検討委員会」委員であり、京都観光おもてなし大使を務めるなど、伝統文化の継承に関する取組などに多く携われている「公益財団法人有斐斎弘道館」の館長である濱崎加奈子さんにお話をお伺いしました。

文化における「場所」の重要性

有斐斎弘道館に携わったきっかけを教えてください。

この場所は、友人の紹介で知りました。当時、お茶席など日本文化の体験事業などをされており、私もお手伝いをしていました。最初の印象は、「何かを持っている建物・場所だな」と。ここは、お庭や建物も魅力ですが、江戸時代には全国から門弟3000人を集めたという皆川淇園の学問所であり、文化拠点でもありました。

その後、建物を取り壊すという話が出たため、多くの方々の協力を得て、なんとか取り壊しを免れました。公益財団法人として運営できる体制を整え、館長に就任したのが9年前のことです。当時、採算が合わないものを潰すという風潮がありましたが、経済性だけで潰していくと京都がすべて潰れてしまう。

京都は文化のまちです。とりわけ御所の近辺、上京区は、世界から憧れられる、文化が集積してきた重要な場所ですので、こういう文化拠点が失われていくと、それは京都じゃなくなってしまうという危機感を持っていました。

ここでの活動で大切にされていることは何でしょうか。

まず、場所が大事であるということ。この場所、建物には、様々な知恵、学びが受け継がれています。経済性、効率性といった現代的な尺度だけで壊してしまってはいけません。

また、古いことをよく知らないといけない。本当の意味で新しいことを目指している人は、実は伝統を愛し、尊重している。そこからほんものが生み出されてくるのだと思います。型を知っているから型破りができる。今ならまだ、ほんものの型を知っている人が残っているので、そういう人を大切にしたい。こういった場所や知恵がなくなると、文化が廃れていってしまいます。

文化というものをどのように捉えていますか。

確かに、文化には実体がなくイメージを伝えるのは難しいのですが、文化とは例えば、距離感のことではないでしょうか。何かの対象物と自分との距離をうまく保ってくれて、調節してくれる装置が文化だと思うし、それは判断力とも言えます。相手への思いやりや自らの居所を知る力。茶道でも能・狂言でも、文化を理解するのは、事物との距離感、判断力を磨くことにつながっているのではないかと思います。

さらに視点を変えると、文化は「美」と言ってもいい。どちらが美しいかなど、美をきちんと感じることができるのは、言い換えるとそれも判断力なんです。生き方を選択する力でもある美の判断力がなくなると、人が人ではなくなると思います。人だから自然の中に美を見出し、美しいと感じることができるのではないでしょうか。

場所が生む「繋がり」。学問所としての使命感。

この場所での学びから生まれるものは。

ここは元々学びの場所なのですが、ここで何かの講座をすると不思議と繋がりが生まれてきます。人と人との繋がりや、友達の友達との繋がり、幼い頃の遠い記憶や歴史との繋がりも生まれてくる。それがこの場所の力なのだと感じています。

茶道でも着物でも、それらを育んだ和の建物もそうですが、何かを学ぶ上でそういったものが装置となり、様々な文化を有機的に総合的に繋いでいく。ここもそういう場所なんだと思っています。

有斐斎弘道館の今後の展望をお聞かせください。

江戸時代の人たちの学びについて、真剣に考えたいと思っています。門弟を3000人も集めたという学問所だったわけですが、その源泉は京都・上京の魅力であり、知恵であったと思います。今の大学や高校の勉強とは違う、人と人、人と芸術、人と自然といった繋がりの教育について、真剣に考え、実践する場所にしたいと思っています。

そして、そのためには場所が必要ですので、学問所の使命として、この場所を保たなければなりません。ここの建物、畳、庭などはすべて生きており、ここに来た人には何かが確実に伝わり、心に残ります。文化を学ぶ場、美の判断力を磨く場をこれ以上失ってはいけないという想いでいます。

日本で最高峰の学びの場所を守る。

西陣の地域に対する将来への想いは。

この地域は、伝統文化が根付いており、日本の中でも最高峰だと考えています。世界中でここにしかないものであり、説得力もあります。私が言うのもおこがましいですが、そのことを住んでいる皆さんにまずは良く知ってほしい。一方で、現実には歴史ある建物が取り壊されていく状況もある中で、何とか、次の世代、次の時代へと繋いでいければと願っています。今の時代、いろんな知恵や仕組みがあり、手を差し伸べたい人はたくさんいると思うので、地域全体として、コミュニティ全体として、一緒に支え合い頑張っていければと思います。

(2018年5月18日公開)

 

 

詳細情報

企業名・団体名公益財団法人有斐斎弘道館
営業時間・定休日など10時~17時
公式サイトhttps://kodo-kan.com/
問い合わせ先公益財団法人有斐斎弘道館
075-441-6662

keyboard_arrow_right一覧記事へ