にし人西陣のひと

「塩芳軒」髙家 啓太さん

創業1882年。天下統一を果たした豊臣秀吉が築いた豪壮な城郭・聚楽第。その鉄門が面していたとされる黒門通にお店を構える、京都西陣の御菓子司・塩芳軒 五代目 髙家啓太さんにお話をうかがいました。

塩芳軒の歴史を教えてください。

創業は1882年。暦応四年(1341年)に中国から来日し、日本に饅頭を伝えたとされる人物・林浄因の流れを汲むといわれる京の名店「塩路軒」から、初代・高家芳次郎が別家するかたちで創業しました。

1591年、天下統一を果たした豊臣秀吉は、聚楽第と呼ばれる豪壮な城郭を築城し、強大な権威を世に示しましたが、塩芳軒は、そこから命名した焼菓子「聚楽」を代表銘菓として、聚楽第の鉄門が面していたとされる黒門通に店を構えています。
現店舗は大正3年に完成したと聞いています。以来、私達はここ京都のまちで、皆様にお喜びいただけることを願いながら御菓子をご提供し続けております。

黒染めののれん、細やかなあしらいなど、すごく素敵なお店ですね。

京町家のつくりに、黒染めの7枚の長のれんと水引のれんがお店の顔になっております。数年ごとに刷新しながら代々守り続けております。

建物は景観重要建造物及び京都市歴史的意匠建造物にも指定されています。
店内にお入りいただくと、奥に工場、お庭と座敷がございます。座敷では月に1~2回程度、お茶とお菓子を楽しんでいただく喫茶を行っております。(取材時はコロナ禍のため中止中)

土間の三和土(たたき)は職人さんにお任せしたのですが遊び心があります。受け継がれている美しい螺鈿の行器(ほかい)(または菓子井籠(かしせいろ)とも言います)なども飾っています。塩芳軒の空間を楽しんでいただければ嬉しいです。

京菓子・和菓子を作られるときに大切にされていることは何ですか?

大切にしていること、それは色んな視点からお話することができると思います。
意匠の上では、「想像性を持つ、引き算のデザイン」を心がけています。
全てを菓子の中で語ってしまう、作り込んでしまうのではなく、受け手に考える余白を与え、想像力を膨らませていただけるように心がけています。
菓子はダイレクトなメッセージをもたない、ということです。

製造という意味では、素材へのこだわりももちろん大切にしています。
代々受け継がれてきた味を守りながら、時代の流れや嗜好に合わせて変化させています。

この西陣の地で、代々受け継いでこられましたが、この町をどう思いますか。

私はこの聚楽第跡の町で生まれ育ち、数年前に五代目として暖簾を受け継ぎました。
この界隈にも町家がたくさんありましたが、残念ながら景観は大きく変わってしまいました。それから少しずつ町も人も空気も変わりました。
時代の必要性に合わせて京都の町も変わっていくのだと思います。
ですが、この地で生まれ、ここにお店があり、うまれた菓子もたくさんあります。
育まれてきたものを大切にしていきたいです。
最近では学生さんが西陣の魅力を再構築しようと塩芳軒を取材してくれ、嬉しく思います。活気ある西陣のまちを願います。

高家さんが感じられる課題や今後の展望についてお聞かせいただけますか。

お菓子のあるシーンが減ってきていることが課題です。コロナの影響もあり観光、宴席も減っており、提供する機会も減っています。これまでは節目の日に地域行事などで配られていたお饅頭や赤飯も最近では減ってきていると聞きます。
時代の変化とはいえ、とても寂しいことです。

ですが、新しい取組も行っています。
春夏秋冬、五節句、二十四節気、祭事、慶事、人生の節目・・・様々な場面で菓子は登場します。お菓子をおいしく召し上がっていただくため、お菓子に合わせたお茶のブレンドはすでに取り組み、販売も行っております。今はお抹茶も試作中です。さらに、お菓子に合う菓子皿も一緒に提案をおこなっております。お菓子を通じたシーン、空間をつくりあげていきたいです。

さらに、「新しい暦づくりをしたい」と思っています。例えば、数年前から今宮神社の織姫祭に、ういろう製の「索餅」(縄のように捻じった菓子)を献菓しています。病除け、厄除けを願う菓子で、素麺の原型ともいわれています。
これまであまり知られてこなかったけれど、菓子とのかかわりが深い、宮中行事、茶道、寺社仏閣で大切にしてこられた儀式や文化から着想を得て、新たな菓子の楽しみ方を提案していきたいです。

高家さんにとって京菓子とは?

お菓子は「楽しみ」です。素材を考え、想像し、つくることは楽しいです。
人が集うところにお菓子はあります。そういったシチュエーションもまた楽しい。
そして食べることも楽しいです。自分自身が楽しみ、視覚をはじめ、その菓子が持つ背景や由来を知り、菓銘や風味、食感を通し、五感で楽しんでいただけるように思います。

(インタビュアー be京都岡元麻有)

詳細情報

企業名・団体名御菓子司・塩芳軒
公式サイトhttps://www.kyogashi.com/

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