にし人西陣のひと

(株)テムザック 代表取締役議長 髙本 陽一さん

株式会社テムザックは、世界でも数少ないサービスロボットの開発・製造・販売を専業に行っているロボットメーカー。西陣の旧織物工場に研究所、本社を構えます。世界から注目を集める髙本陽一 代表取締役議長にお話を伺いました。

事業概要を教えてください。

株式会社テムザックは2000年に設立しました。福岡県宗像市の旧役場にロボットの開発や組み立てを行う拠点を置き、2021年4月に京都市上京区に本店を移転しました。

ロボット専業メーカーとして、人の労働を代替し様々な作業を支援する「ワークロイド」と呼ばれる領域を手がけています。

ロボットの受託開発を主体に、自社ブランド品の開発も行っています。

代表製品のひとつ、「RODEM(ロデム)」について教えてください。

RODEM(ロデム)は車体の後方から乗る設計をした「乗れるロボット」として開発しました。「馬乗り形電動車椅子」としてJISに定められています。

自力歩行が難しい高齢者がベッドから体の向きを変えずに乗れるようになっていること、座高が高く、歩行者との目線も近いことが大きな特徴です。狭い場所でも旋回しやすく、スマートフォンで遠隔操作が可能です。

RODEMは、健康な人も移動に不安を覚える人も同様に移動できることを目指したユニバーサルモビリティとして進化をし続けています。例えば、自動運転・遠隔操作の配送サービス、観光地の回遊においての経路案内、多言語翻訳などのネットワーク機能を搭載しています。

将来的には、シェアリング可能なシティモビリティとして、またテーマパーク、病院、空港ターミナル、観光地などでの幅広いニーズに応えることを目指して、さらなる研究・開発を進めています。

なぜ京都に研究所をおかれ、本店も移転されたのですか?京都、さらには西陣を選ばれた理由を教えてください。

クライアントが大阪に多かったこともあり、関西への進出を検討していました。大阪出張に合わせて、京都に来たとき、偶然この場所(浄福寺通上立売上る)で、建物を見つけたのがきっかけです。

西陣織の倉庫になっていたのですが、とても趣のある建物でした。興味を持って見ているとオーナーさんが気さくに話しかけてくれ、「何してるん?」「ロボット屋です。」「それはおもしろいな~」と話がとんとんと進んでいきました。

また、「京都」という地名は国際的にみても、圧倒的にブランド力が強いです。他にはない魅力があるこの地から、これからどんどん開発、発信をしていきたいという意欲につながっています。

ロデムの公道走行実験についてどのような感触でしょうか?

街乗り用に進化させた小型モビリティであるロデムの公道走行実験については、全国で進めています。京都市とテムザックの共同で、国に対して「街を変えるパーソナルモビリティ特区」を提案し、北区と上京区において周囲への影響を調査する走行実験を実施しました。

移動速度は介護向けの時は、毎時6キロですが、それを自転車程度の12キロに向上させ、京都府警、京都市の協力を得て車道走行テストを行いました。

配送の自動化の実験も行っています。荷物を受け取ったロボットは、衛星などから得た高精度な位置情報をもとに目的地まで自動で走行します。外出が難しい高齢者などの買い物をサポートするのが狙いで、配送に使わないときには、ロッカーを椅子に付け替えて、人が乗ることも可能です。

人手不足によるロボットでの作業を代替することが加速していることに加え、新型コロナによって、遠隔化、非接触化、ソーシャルディスタンスの確保といったニーズが高まり、その対策としてロボットへの注目度がさらに高まっていると実感しています。

今までにないワークロイドというロボット産業を生み出した第一人者でいらっしゃいますが、強みを教えてください。

1990年前半、妻の母が群馬に住んでいて、もし倒れてしまったら、九州からすぐに駆け付けることが難しいので、遠隔でロボットが助けてくれたら良いのにと思って人の分身となるロボットを開発しました。それ以降、真の意味で人の役に立つワークロイドをつくろうと思っています。

今までにない新たなロボット産業を生み出すという意味では、システムやルールを作らなければ新しい時代はこないと思っています。我々は量産できるロボットを作っていきたいと考えており、ロボットをとりまく仕組みやルールを作っていることが強みだと思います。

開発にあたっては大変なご苦労があったかと思います。世界がテムザックに注目する中、日本、京都に対して求めることをお聞かせください。

そうですね。特に、開発や研究のための資金面ではとても苦労しました。また、新しいことをしようとすると、既存の事業をされている団体や研究者からバッシングを受けることも多々ありました。

私たちがつくるロボットには建築作業、医療、レスキュー、農業・林業など人の役に立つものが30種類以上あります。ロボットが人間の仕事を奪うと言われたりもしますが、人手不足に困っている業界からの依頼はどんどん増えていて、ロボットが仕事を奪う前に、その職業に就く人が先にいなくなってしまうのではと思うのです。

人間ができないことはたくさんあり、ロボットがやるべきことはたくさんあります。ニーズは飛躍的に増えています。

日本と海外の違いという点では、海外の場合、ひとつの産業を興そうと思うと、一社に集中して投資を行うことが多いです。ですが日本は予算を広く分配させます。それだとなかなか産業を興すことは難しいと思います。

ヨーロッパ、アジア諸国から産業としての引き合いも強いです。
私は、日本、京都を拠点に新しい仕組みをつくり、産業の価値をあげていきたいと思っています。地元、地域の支援は力になります。

髙本さんからみた西陣はどのように映りますか?

とても気さくな方が多く住みやすいまちです。こだわりを持っているお店も多くあり魅力あるまちです。

また、西陣織の織機にも、我々がロボットで使っているメカの部分と共通するものがあります。例えばギアやカムシャフトと呼ばれる部品ですが、それらが使われています。

西陣には、帯を織るだけでなく、そのようなメカ部分に特化した職人が多くいたはずです。ロボットにおいてメカの技術があることはとても大事です。分野が違っても、技術の応用ができれば良いと思います。

西陣には伝統産業、伝統工芸の職人が多くいますが、伝統工芸はロボットにはできません。もちろん形作られた同じものを単純につくることはできますが、ロボットには温かみはありません。なぜならロボットは工夫をしないからです。そういう意味では人間の力、職人の技が必要です。

例えば京都のまちに似合うロデムにするため、知恵をお借りしたいですね。

これからのロボット開発についての想いをお聞かせください。

世界で必要なロボットを、世界に先駆けて実用化していきたいです。

いよいよ、働くロボットの活躍する世の中が到来します。リーディングカンパニーとして、人とロボットが共生する豊かな社会をつくりたいと思います。

未来を担う若者へメッセージをお願いします。

「やりたいことをやる!」ということを大切にしてもらいたいです。みんな一緒がよしとされる世の中で、人とは違う何かを見つけてほしいです。もちろん、いろいろな天才(才能)を周りが育てていくことも大切だと思います。

 

(インタビュアー:Art Gallery be京都 岡元麻有)2022、1

詳細情報

企業名・団体名株式会社テムザック
公式サイトhttps://www.tmsuk.co.jp/

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