西陣で続ける意味がきっとある
~暮らしの中で実践されるお茶の可能性~茶人天江大陸さん、中山福太朗さん
お茶にゆかりが深い大徳寺の近くで、若手茶人がシェアハウスに住み、暮らしの中でお茶を実践している「陶々舎」。2013年に陶々舎を立ち上げられた天江大陸(あまえ だいりく)さん、立ち上げから4年間住まれた中山福太朗(なかやま ふくたろう)さんにお話を伺いました。
お茶との出会いは。
天江
大学で京都に来て、1年の時にお茶を始めました。せっかく京都にいるので、何か京都らしいことをしたいなあということが1つ。そして、大学で建築を専攻していて、元々お茶室に興味があったので、その延長で茶道を習わないといけないかなと思って。それまでは、お茶なんて楽しそうに見えてなかったですが、近所に住んでいたお茶の先生に週に1度通い始め、今も続けています。
仕事をしながらお茶をしているので、趣味というくくりになると思いますが、歴史的に見ても、過去の茶人は武士や商人など、今でいうビジネスマンをしながらお茶をしていたので、定番なスタイルかもしれませんね。
中山
私は大学の茶道研究部で始めました。高校の時は弓道をしていて、その体の動きや世界観が好きでした。京都の大学に入って、居合や雅楽など、部活動を色々探したときに、お茶は5千円や1万円で始められるよっていう甘い言葉に騙されて茶道部に入りました(笑)。お茶を飲むだけならハードルが高くないのがいいところですね。やってみると、動きの中に弓道とお茶の共通するところを感じます。
あと、子どもの頃は虫が好きで、野山を駆け巡って虫を捕まえて、絵を描いたり、写真を撮ったりしてました。お茶でも茶碗をひっくり返して鑑賞しますが、ある時ハッと気づきました。これ虫をひっくり返して見ていた動きと同じだと(笑)。
私はたまたまお茶をしていますが、お茶自体が好きというより、お茶の中でグッとくる瞬間がたくさんあってそれが好きですね。
陶々舎を立ち上げたきっかけは。
天江
大学を卒業して東京で働きだすとお茶の稽古に行く余裕がなくなってしまいました。仕事から帰ってきて家にいるときにお茶ができた方がいいなあと思ったんです。
あとは、私の先生もそうですが、自分の自宅でお茶会ができるということが一つの到達点なので、そういうタイミングだったのかなと思ったのもありますね。この場所が見つかってから、一人でやるよりは想いを持った仲間と一緒にやった方がいいと思い、中山さんと留学生の女性と3人で住み始めました。
中山
私は大学を出て、鴨川でお茶をふるまう「鴨茶」という活動をしていた時に、天江さんと出会って陶々舎に住むことになりました。
若い人間が自分の家でお茶をするのは、ほんとにハードルが高いんですよね。道具をそろえるのも大変だし、場所の維持費もかかるし。陶々舎では、誰かが道具を買うとみんなでシェアできるし、お茶室を別に借りる必要もない。住んでみて、お茶とシェアハウスの相性の良さに気づきました。
陶々舎ではどんな活動されていますか。
天江
陶々舎には伝統文化を守ろうといったコンセプトがあるわけではなく、暮らしの中にお茶がある家みたいな感じですね。僕も含めて生徒なので、自分の学びに励む場所です。それぞれ自分のやりたいお茶、ワークショップなどをやればよくて、そういう意味ではコワーキングスペースともいえるし、シェアハウスともいえるかな。
活動としては、SNSなどで案内をして、ここでお茶会をやっています。参加者は、着物着たいという方、SNSの写真を見て興味あるという方、近くに住んでいる方など様々ですね。半分くらいは初めての人で、次回、その方が友達を連れてきたりすることもあります。
他には、イオンモールKYOTOの無印良品の店舗で、お茶に付随する感覚や遊びを取り入れた親子向けワークショップを2年くらい定期的にやっています。
陶々舎という場の価値をどう感じていますか。
中山
私は陶々舎のおかげでお茶を差し上げられる側になれました。お茶は亭主七分の楽しみとも言いますが、差し出す側になって初めて面白さが分かってきます。自分でお菓子を用意して、お客さんが来て、喜んでくれる。そうすると今度は自分が受け取る側になった時のレベルも上がります。そのやり取りの中で文化的なレベルが上がっていくと思うんですよね。自分でお茶会をする人は多くないですが、そこの開拓が大事で、陶々舎のようなハードがあると参入しやすくなると思います。
お茶の文化をどうやって広げていきたいですか。
天江
単純に広げればいいとは思っていません。無理に大勢のためにお茶をやろうとすると、お茶の良さが消えてしまい、何にもつながらないと思います。僕の場合は多くても10人程度、3人くらい招くのがちょうどいいですね。自分ができる範囲でやっていて、それに興味がある人はウェルカム。やりたい人がやったらいい。だって面白いんだもん(笑)。面白そうにお茶している姿を見せられて、それを見た人が参加してもいいですか、となるのが、自然でいいなと思います。
中山
年に1回お茶会する人が100人増えると、100回お茶会が増えます。大規模なお茶会を1回やるよりも、1日5人招くお茶会がもっとたくさんある方が文化的にはポジティブだと思います。コアな人たちがつくる小さいグループがあちこちにたくさんあるのが面白いし、そこにこれからのお茶の発展があるんじゃないかと思います。
子どもの頃から文化に触れることが大事だと言われますが、どう感じていますか。
中山
お茶がなくならないために、子どものうちに触れる機会があることは大事だと思います。私たちの世代はぎりぎり親がやっていましたが、母も祖母も知らないとなると、子どもにとっては歴史の話になってしまう危機感があります。
子どもとお茶の体験をすると面白いですよ。子どもにとっては、リアルに飲めるままごとなんですね。私が点てたお茶よりも、子ども同士で点てるお茶の方がおいしいと言う(笑)。でも、これはある意味でお茶の本質だと思います。味よりも状況が優先していて、信頼関係がある友達が点てるとおいしい。これはお茶の喜びの一つだと思いますし、子どもに体験してもらいたいですね。
西陣のエリアをどう感じておられますか。
天江
陶々舎を始めるときには西陣にこだわりがあったわけではなく、偶然この物件が見つかったんです。もちろん大徳寺はお茶のパワースポットの一つというか、由緒のある場所なので、やるんだったらここかなと思いました。
ここに来て数年がたち、今宮神社の織姫七夕祭に誘われて地域の方と交流するようになってから、西陣を意識するようになりましたね。こんなにものづくりをしている人が多いんだと驚きました。
そんな中で、氏子意識も出て来たし、利害関係や損得ではなく、西陣の場所の力や、蓄積された知識・知恵、人の魅力を感じて、自分も何かしたいなという気持ちになってきてますね。おそらく、10年前の西陣にはこんな雰囲気はなかったのではないかと思いますし、今はコトが起こるタイミングなんだと思います。土壌が整えば、自然と草が生えてくるように。
中山
西陣の良いところは、6、7万円くらいで借りられる小さい町家がまだ多く残っていて、一人で住めるし、また、ものづくりの人、若い人が入って来られるということでしょうか。そういう場を使いながら、お茶が媒介して、小さくて深い場をたくさん作る仕組みができていくと面白いと思います。集まる人の相性もあるので、煎茶でも、コーヒーでもいいですが、何かしら差し出すと人が集まります。集まるきっかけがたくさんあると、幸せになる人が多くなると思いますね。
また、お茶は道具を使うので、西陣のようにものを作る地域との相性が良いと思います。近くの職人さんに直接お願いして作ってもらうと、こういうふうに作るんだとか分かるし、作る人もアウトプットが見られますしね。
今後やっていきたいことはありますか。
天江
世界的なコロナウイルスの拡大で、皆さん不安に思ったり、経済がうまく回らないと人に優しくする余裕がなくなったりということが現に起こってきています。そんな時に、和をつくろうとする時間、お茶でもどうぞって差し出せる心を持つことって危機を乗り越えるうえでは大事だと思います。とりあえずお茶を一服差し上げて、大変な時期ですけどお互いがんばりましょうねって。それが再認識できたので、それを自分の中で軸にしながらやっていきたいと思います。今後は、外と関わること、外に出向いて自分が経験したことや感じたことをシェアしていくことが増えるかもしれないですね。
(2020年5月18日公開)
詳細情報
企業名・団体名 | 陶々舎 |
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営業時間・定休日など | 北区紫野大徳寺町63-38 |
公式サイト | http://totousha.com/ |