にし人西陣のひと

ツギニスト集合写真「にし人」特別編 第1回「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)」 ~アップデートを続けるまち、西陣のこれから~

今、住んでいるまちは好きですか?

住む場所というのは、だれにとっても必要なもの。どんな場所に住み、誰とどんなことをするのか。そんな一人ひとりの暮らしが、まちの個性となり、まちの未来を形作っていきます。

西陣は、歴史や伝統文化を継承し、西陣織を中心に発展してきたまちでもありますが、より幅広い分野で新たな事業や取組にチャレンジする方も増えています。そんな西陣のこれからについて考えるイベント「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)」が2019年12月7日、京都信用金庫西陣支店2階の「クリエイティブコモンズNISHIJIN」にて開催されました。

「つぎにし」は、「西陣を中心とした地域活性化ビジョン~温故創新・西陣~」推進の一環として、西陣地域のネットワークをさらに大きくつなぎ合わせ、新たな展開を生み出していく基盤づくりを進めるために、西陣で活躍している人やチャレンジしたい人が一堂に会して交流する場として企画されました。ものづくり、商店、まちづくり、文化芸術、学生など様々な分野から60名近い方々に参加いただきました。

「つぎにし」では、「ツギニスト(つぎの西陣をつくる人や事業者)」7名がプレゼンテーションを行いました。本記事では、ツギニストが考える「西陣のこれから」を紹介します。

 

「地域の魅力を細かく掘り続けて、世の中に発信し続けたらこうなった」

岩崎達也氏(泊まれる雑誌マガザンキョウト)

岩崎達也氏

東京でのソーシャルメディア関連の仕事、そして京都のロフトワークを経て独立された岩崎さん。「世界は編集でできている」という言葉を見つけてから様々なことがしっくりくるようになったそう。京都においても西陣織のように、人やもの、ことが重なり合って連続することで物事が前に進んでいくのでは、と話します。

岩崎:編集といえば雑誌。そこで、”泊まれる雑誌”というコンセプトで「マガザンキョウト」をつくりました。雑誌には特集があって、それを空間でやるとどうなるのかを検証する場所でもあります。本特集をしたりホテル特集をしたり、いろいろな企画をした結果、多様な切り口の人に出会えました。マガザンキョウトでは特集や空間の中に取り入れた広告もあります。また、地域行事があるときにはゲストにも参加してもらえるので宿泊を通してゲストは京都に詳しくなって帰られます。京都を中心にした文化に詳しくなれることをうちの価値として、コミュニティをつくっていろんな方の強みを活かしたプロジェクトを進めています。「好き」というキーワードが自分自身のあり方にとって大事なものなので、その「好き」に向かいながら世の中、京都の役に立っていけたらという気持ちです。

マガザンキョウト:https://magasinn.xyz/

 

 

「風呂なし銭湯ライフを提案する『あひる不動産』」

大武千明氏(手描き図面工房マドリズ)

大武千明氏

建築士資格を持ち、間取り図クリエイターという肩書きで建築関係のイラストやパースを描く仕事をしている大武さん。今ある物件を壊さない選択肢を提案できる不動産をしたいと思い、「あひる不動産」というプロジェクトの始動にとりかかっています。

大武:もともと銭湯が好きだったこともあり、家にお風呂がなくてもいいかもしれないと思って。風呂なし物件に引越したところ、部屋も広くて安いことに驚いたんですね。そこで、お風呂がないから改修しないと貸せないという悩みを持つ所有者さんに向けて、そのまま活かせますよというアプローチができる不動産屋を始めようとしています。風呂なし物件と銭湯の魅力もあわせて紹介するという仕組みで、空き家を活かして町を守ることができればいいなと思っています。

手描き図面工房マドリズ:https://madori-zoo.tumblr.com/

 

 

「古いと新しいの美しさをカタチに」

岡田結衣氏(西陣たくみ人形)

岡田結衣氏

西陣生まれ西陣育ちの岡田さん。東京で就職したのちに京都に帰り、ベンチャー企業で働きながら、家業で製作しているひな人形とそれをとりまく文化をどう残すかを模索しています。ひな人形のルーツは、自分のけがれを人形(ひとがた)という紙に移して川に流すという中国の風習だと言われているそう。それが平安時代には貴族の女の子たちの遊びにつながり、江戸時代には武家の繁栄を願う華やかなものへと発展していきました。

岡田:ひな人形の魅力は、飾る、眺めるという鑑賞の行為を生むことだと思います。ただ、飾る場所や時間が必要だったり、ルーツや意味が浸透しなくなっていたり、今の住環境や暮らしのスタイルにあわなくなってきたりしているという弱点があります。それらを解決していくために、古くから大切にしてきたものの良さを残しながら、現代の人のニーズに昇華することが大切だと思っています。必要なのは、新しいことをするわけではなく、軸を見定めた上で何をするかを決めるトータルブランディングとデジタルでお客さんとつながれるコミュニケーションだと思います。スタイルは守りながら新しいものを取り入れて発信することでこそ残せるものだと思うので、なにかアイデアがあれば教えていただけると嬉しいです。

たくみ人形:https://www.takumi-ningyo.com/

 

 

「西陣に工房住宅をつくる価値」

岸本千佳氏(株式会社アッドスパイス)

岸本千佳氏

不動産プランナーの岸本さんは、西陣に事務所を構えて暮らしており、京都を中心とした建物のプロデュースの仕事をしています。先日、西陣(北野商店街周辺)で空き家7軒を店舗兼住居や工房にリノベーションしたプロジェクトには想像以上の問い合わせがきたそうです。

岸本:新しくお店をしたい方はもちろん、お子さんが生まれて店を別で持つより家と一緒にして経営したいという方もたくさんいます。西陣はもともと西陣織の工房を兼ね備えた職住一体型の家が多いまち。使われていない建物をうまくリノベーションして、適切な人に使ってもらうことで大家さんにもユーザーにも利点があるところから西陣をさらに盛り上げたい。その盛り上げ方として、「職住一体のしくみ」は西陣らしいまちづくりだと思います。来春には職住一体に関するサイトをオープン予定で、実際に暮らしている人のインタビューや新築の職住一体物件に関するコンサルができるようなものです。これを通して西陣で「ものづくり」をフィルターにしたまちづくりに貢献できたらと思います。

株式会社アッドスパイス:http://addspice.jp/

 

 

「京都内外を行き来した先に見えた西陣の可能性」 

西紗苗氏(naeclose(ネイクローズ)デザイナー/装飾家)

西紗苗氏

アクセサリーブランド「naeclose(ネイクローズ)」の西さんは、高校の時に留学したオーストラリアのホームステイ先でアクセサリーづくりに出会いました。就職したのち、手作り市やワゴンショップでの販売を経て、現在は西陣を拠点に活動されています。

西:当初は海外のパーツを使って制作していました。だけどある時、京都でお店をしているからこそ、京都の素材を使ってアクセサリーをつくれないかな?と思い、京都にゆかりがある素材を使いはじめました。現在は、西陣エリアにある「西陣ろおじ」という宿、カフェ、パーツショップが併設されているところを中心に活動しています。宿もあるので観光客の方だったり、カフェを利用する気軽なお客さんだったりと、多面的な切り口で、作品を通して京都の文化に触れてもらえる場所になってきたと感じています。最近はアートイベントやオブジェ展示もしているので、それらを通して西陣を拠点に文化を発信をしていくことで、まちを盛り上げていけたらと思います。

naeclose:http://naeclose.com/

 

 

「西陣の新人飲食店で作る新しい陣『西陣新人』」 

松山貴政氏(ながぐつ食堂)

松山貴政氏

西陣・大宮通近くの「ながぐつ食堂」ではイタリア料理や多国籍料理を楽しむことができます。上京区に生まれた松山さんは、お店をはじめてから西陣について考えるようになり、いろいろな活動をはじめたそうです。

松山:オープンしたときは新規のお客さんの獲得に苦労したのですが、お客さんを紹介してもらったりする中で「縁」の大切さを実感しました。そこで、私たちのような新参者の飲食店が協力して西陣を盛り上げつつ、つながることができるプロジェクトとして「西陣新人」を立ち上げました。定期的にイベントを行い、ゆくゆくは西陣を盛り上げるために夜市を定期開催できたらと思っています。西陣にはゲストハウスなどが多いので、宿泊する観光客の方や地元の職人さんや学生さんが夜集まれる場所、西陣だからこそ、帯を締めるとご飯のシメをかけて「〆のまち・西陣」として「西陣夜市」が機能していけたらと思っています。

ながぐつ食堂:(Facebook)https://www.facebook.com/ma2yama3/

(Instagram)@nagagutsu_lokantaria

 

 

「きょうを楽しむ宿をつくる」

横山恵氏(KéFU stay&lounge)

横山恵氏

2019年4月に西陣に移住した横山さん。2020年3月に西陣にオープンする宿泊施設「KéFU stay&lounge」のカフェマネージャーとして開店準備やメニュー開発に励んでおられます。「KéFU stay&lounge」の名前には、「今日」を古語で「けふ」と読むことから、「今日・京(京都)」を伝えていきたいという思いが込められているそうです。

横山:「KéFU stay&lounge」はカフェが併設された宿泊施設です。カフェは宿泊者だけでなく地域の人をはじめ、たくさんの人に気軽に利用していただける場所。だからこそ、ガイドブックに載っていない西陣の良さを知ってもらえる場所にしていきたいと思います。カフェの壁一面に大きな周辺マップを描いて、地域のおすすめスポットを紹介したり、京都の食材を使ったメニューを提供したりする予定です。いろいろな京都・西陣とつながれる場所にできたらと思うので、おすすめスポット、こういうイベントを開催してほしい、というのがあればぜひ教えてください。みなさんと一緒につくりあげていける場所にしていきたいです。

KéFU stay&lounge:http://www.ke-fu.jp/

 

 

西陣のこれから

「ツギニスト」のプレゼン終了後は、参加者がそれぞれ、プレゼンの感想やアイデアを持ち寄り、プレゼンターも交えて意見交換。はじめは恥ずかしがっていた参加者もいましたが、「事業の発想はどこから生まれたんですか。」、「地域や周囲とのつながりが事業にどう活かされましたか。」など、プレゼンターへの質問が途切れず、時間がたつほど「一緒にこんなことしたいですね。」といったつぎの西陣につながるようなワクワクする白熱した議論が繰り広げられていました。

交流会の開催後も、ツギニストのお店を参加者が訪問したり、参加者の協力で新たなイベントの企画が進みつつあるなど、参加された方同士の交流も活発になっているとのこと。

つぎにし交流会の様子

西陣は、暮らしている人が多いまち。でも、まちの中で働く人がいないと、まちづくりはできません。自分たちにとって、まちとどう向き合って、暮らし、仕事をすることが幸せなのかを考えるきっかけになったイベントになりました。

アップデートされ続けるまち、西陣。お店が増えたり、住民同士の活動が増えたり、それぞれが西陣での「好き」を更新しています。2月18日には2回目の「つぎの西陣をつくる交流会」が開催されます。参加者のみなさんと「自分ごと」「みんなごと」としてまちを知り、つながれるイベントです。地域の方はもちろん、まちとどう向き合うか考えたい人や、西陣に興味がある人のご参加をお待ちしています。

【次回案内】

2020年2月18日(火)19:00〜21:30(受付開始18:45)

クリエイティブコモンズ NISHIJIN(京都信用金庫 西陣支店 2階)

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