にし人西陣のひと

「にし人」特別編 令和2年度「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)」レポート 人と町が織りなす西陣の可能性と未来〜つぎにし2年目を終えて〜

「西陣」と聞けば、昔ながらの京都の近寄りがたい雰囲気をイメージする人が多いのではないでしょうか。でも「つぎにし」に参加すると、そのイメージはがらっと変わり、「西陣にはこんなにおもしろい人たちがいるんだ!」と驚くかもしれません。

なぜなら、この地域には西陣織で栄えた昔から、小さい事業を行いながら、「お互いに協力しながら商いをやっていこう」という文化があって、それが今なお受け継がれているからです。そんな地域で生きる人はどこか幸せそうで、自分も仲間に加わりたくなります。

「つぎにし」というのは「つぎの西陣をつくる交流会」のこと。西陣で事業を行う人たちが交流し、顔の見える関係をつくることで、西陣をもっとワクワクするクリエイティブな街にしていこうという試みです。京都市の主催により、株式会社ツナグムが運営しています。今年度は、令和3年1月に2回開催するとともに、その前後で、12月に説明会と、3月に報告会を行いました。

▼今年度の説明会や1年目の「つぎにし」についてはこちらからhttps://nishizine.city.kyoto.lg.jp/information/2tsuginishi/

 

交流会は東京や九州からの参加も!
新たなアイデアやつながりが生まれるきっかけに

今年度の交流会は、コロナ禍のため第1回、第2回共にZoomを使ってのオンラインで開催しました。登壇者は12名(各回6名)。のべ101名もの方に参加していただきました(第1回49名、第2回52名)。

西陣に住んでいる人や職場がある方を中心に、中には熊本や東京など他府県からの参加者もいました。遠方からでも参加いただけるのは、オンラインの良さですね。

冒頭には、参加者同士の自己紹介タイムが設けられました。ブレイクアウトルーム機能を使って1グループ4、5名に分かれて「今していること」と「今日期待していること」を簡単に紹介し合いました。そこで共通点が見つかったり、新たな分野の方と出会ったりして緊張をほぐしたところで、早速6名のプレゼンタイムがスタート。

交流会の登壇者の皆さんは、いずれも西陣で自ら活動している、または今後活動したいと考える方々です。活動の分野や年代、職種も様々で、とても個性的でありながらも、西陣という共通点があるので、どこかに繋がりがあります。そんな登壇者が交流会で語ってくれたそれぞれの取り組みの内容や今後の展望を少しご紹介します。

 

地域に根を下ろし活動する

昭和レトロな商店街、西陣京極で「風とCOFFEE」というコーヒー屋さんを営む森風渡さんは、コーヒー屋をやることを通してコーヒーの楽しさを伝えること、「○○とコーヒー」というコンセプトで、コーヒーと他の物を組み合わせ、それぞれの可能性を広げることを目標に活動中です。さらに、「西陣京極」のイメージをコーヒーで盛り上げつつ新しい風を吹かせたい!と熱意を語ってくれました。

 

京都市上京区地域介護予防推進センターの中島慶行さんは、西陣の青果店をめぐる「上京くだものスタンプラリー」を紹介してくれました。お年寄りの健康寿命を伸ばすためのイベントです。楽しく歩くことで介護予防になれば一石二鳥。「次回は鮮魚店で」「若者といっしょにやっては?」と語る参加者もいました。

 

NPO法人SOWERの村上弘さんは、体験を大切にする学童保育「ミライブラリ」を展開しつつ、こどもたちの日常をおもしろくする居場所をつくっています。今後は、放課後シェアハウスを作り、大学生や地域の人と交流できる場所をつくりたいそう。「つぎにし」での繋がりが生きてきそうですね。

そこに住んでいる人も住んでいない人も、西陣のことをみんなで考えてみる。西陣を通した繋がりのあたたかさを感じるプレゼンでした。

 

西陣で未来を創り出す

西陣生まれの大学生の前田雄亮さんは、「西陣織を使ったアパレルを作って、新しいターゲット層とジャンルを生み出したい」と語ります。スライドで作品を見せると「それ欲しい」などのメッセージが次々と。参加者からあたたかいエールが送られました。

 

また、CM制作を行う学生組織「comame」の代表・京都大学3年生の渡邊健さんは、「面白く見られる動画広告を作りたい!」「京都には芸大もあるし、学生クリエイターと企業を繋げたい」と話しました。西陣で広報や集客に困っている人がいたら、力強い味方になってもらえそうです。お互いの強みを生かし、弱みを補い合える関係ができるかもしれません。

 

織物のまち・西陣を受け継ぐ

西陣連合青年会・中村亨さんはタータンチェックの西陣織を織り、ネクタイや小物を作ってみよう、というチャレンジをしています。実際に「タータンチェック」と名乗るためには、スコットランドのタータンチェック協会の許可が必要なそうで、現在、許可申請中なのだとか。そんな中村亨さんのルームでは、西陣織の工房から実際に織る様子が紹介され、まるでバーチャル工房見学のような時間になりました。世界中どこにいても西陣織の工房が見られるのはオンライン開催の「つぎにし」ならではで、参加者も非常に興味深く工房を見学していました。

箪笥に眠る「思い出の帯」を切らずに折ることで、オブジェ等として今に繋げるORIOBI・白幡 磨美さん。その作品には「可愛い」「きれいですね」との声が飛び交いました。また、参加者の方から早速「コラボしませんか?」とのお誘いもありましたよ。

<交流会登壇の皆さん>

7分間という時間は短いように感じましたが、登壇者の活動や事業の根っこにある思いを知ることができました。また、オンラインでの開催のため、モニター越しのやりとりとなりましたが、チャット機能を使いながら質問や感想などが積極的に飛び交うなど、リアル開催に引けを取らない盛り上がりを見せました。

プレゼン後に行われた感想共有の時間では、関心のある登壇者のルームに入って、感想や事業のアイデアなどを登壇者・参加者が持ち寄り交流が行われました。

参加者の方の中にもすでに西陣で活動をしている人がたくさんいて、「様々な人が西陣で活動しているということがわかった」「こんなことできるんじゃない?とアイデアが湧いた」などのコメントも積極的に出されました。そんなざっくばらんな雰囲気のなかで、アイデアやアドバイスなども飛び交い、ここで生まれたアイデアが数年後に事業として花咲くかもしれないという期待が感じられる会となりました。

 

交流会のその後、西陣で生まれる新たな動き

今年度は、交流会への参加に留まらず、自分から積極的に行動を起こす方も多く、交流会後も交流が活発です。登壇者の方のお店を訪問したり、事業の相談をしたりと、それぞれが「つぎにし」で得られたつながりから、新たな展開に向けて始動しているようです。

「つぎにし」をきっかけにしたイベントも生まれています。その一つが、「PiPPAで西陣を巡る会」。第1回目の交流会でプレゼンを行った株式会社オーシャンブルースマート・木間千恵さんによる企画で、グループに分かれ、シェアサイクルを使って西陣を散策しました。

梅がほころぶ北野天満宮や釘抜き地蔵といった西陣の観光名所からプレゼン登壇者のお店、普段の西陣が垣間見えるスポット(有名な親子丼のお店や地元の人々に愛される定食屋など)まで、グループごとに西陣を満喫したようです。

最後は全員でもう一度集まり、途中で購入したお土産を食べながら、写真やルートを確認しつつ、感想を共有。西陣の魅力をみんなで深め合う機会となりました。お天気も良く散策日和だったようで、楽しそうな写真が「#つぎにし」のタグでSNSにもアップロードされています。

また、第2回交流会の登壇者であるORIOBI・白幡磨美さんの展示会にも、「つぎにし」で繋がった人たちが数多く訪れたのだとか。「つぎにし」での出会いから、西陣の輪は着実に広がっています。

こうした自発的な動きも踏まえ、今年度の「つぎにし」の活動を締めくくるものとして3月に実施したのが、「つぎにし報告会」です。登壇者と参加者から2名ずつゲストにお招きし、交流会のその後から現在までの動きを語っていただきました。

<ゲスト>
第1回交流会登壇者   森 風渡さん/風とCOFFEE
第2回交流会登壇者     髙本 昌宏さん/株式会社アドレス
交流会参加者             大藤 雅幸さん/オパスグラフィカ
交流会参加者             淀谷 斉加さん/立命館大学4回生

交流会からわずか1ヶ月しか経っていませんが、皆さんそれぞれ新たなチャレンジを始めていて、そんな様子を報告会では語っていただきました。

「風とCOFFEE」の森さんは笑顔でこう話します。「西陣京極に新しい風を吹かせるという大きな目標のファーストステップとして、商店街組合に加入しました。その最初の会合が「風とCOFFEE」で行われたんです。そこで、商店街にあるお店の写真も僕が撮ることになって……」

早速、地域の中に飛び込んで、周りを巻き込んで活動しているようで、西陣京極に新しい風が感じられますね。

「「つぎにし」の素晴らしさは『人から入ること』」とアドレスの高本さん。「コーヒーが飲みたいのではなく、「風とCOFFEE」で森くんに会いたいから行くんです。そういう人は一人ではなく、そこでまた人が会う。そして広がっていく。ここ1ヶ月で何回もそういうことがあって、それがいい」と「つぎにし」の価値について語ってくれました。

実際にどんな動きがあったか詳しく知りたい方は、報告会のアーカイブをぜひご覧ください。

▼Facebook Live「つぎにし報告会」
https://www.facebook.com/nishizine.kyoto/videos/3733521776736655

また、西陣でのチャレンジや取組をみんなで共有したり、応援しあえる場として、Facebookグループ「つぎにしラボ」も展開しています。交流会の参加者や、西陣での活動に興味がある方が登録して、西陣に関するイベントの告知をしたり、感想をコメントで書き込んだり。ページには西陣で今どんなことが行われているかの情報が投稿されています。こちらもぜひチェックしてみてください。

▼Facebookグループ「つぎにしラボ」
https://www.facebook.com/groups/tsuginishilab

このような感じで、今年度はオンラインの特性をいかし、西陣に留まらず全国各地に広がりを見せました。

西陣で生まれたわけでも、住んでいるわけでもないけど、西陣は自分の居場所。「つぎにし」に参加するとそんなふうに感じられるかもしれません。そんな場所は西陣で生まれ育った人にも、住んで働いている人にとても居心地がいい場所なはず。

そんな西陣をつくっているのはやはり「人」です。西陣に「おもしろい人」がいるのは西陣がどんな人でも受け入れてくれる懐の深さがあるからにほかなりません。

そんな西陣でもし「登壇してみたい!」「参加してみたい!」という方がいたら、ぜひ今後も「つぎにし」情報に注目してください。

「人」との出会いを通して、西陣という地域にふれることのできる「つぎにし」

つぎの西陣をつくるのはあなたかもしれません。

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