旬な魚を食卓に届ける-西陣の魚食文化
西陣に学ぶ traditional culture, art, history and technology.

▲㈱西浅 代表取締役社長 児玉周さん。烏丸店にて
西陣といえば、西陣織をはじめとする伝統工芸の町として知られていますが、実はパンやクラフトビールなど、さまざまな職人が活躍する“クラフトマンシップ”の町でもあります。
そしてここには、もうひとつの職人文化——“魚の職人”たちもいます。
今回は、1927年創業の鮮魚専門店「西浅」の3代目であり、代表取締役の児玉周(こだまひろし)さんにお話をうかがいました。
魚の鮮度と、店長の目利きが違いを生む

西浅は京都・大阪・滋賀に12店舗を展開し、西陣エリアでは烏丸鞍馬口の「鞍楽ハウディ」地下1階に1号店があります。近くには本社ビルもあり、地域とのつながりが強いお店です。
西浅の大きな特長は、「各店舗の店長が自ら市場に出向き、競りで魚を仕入れている」ということ。他のチェーン店ではバイヤーが一括で仕入れるのが一般的ですが、西浅では各店舗が独自の目利きで仕入れるため、店によって品揃えや価格も異なります。だからこそ、どの店舗でも鮮度の高い、その日の“最高の魚”が並びます。
自家製へのこだわり ― “魚をおいしく”の想い
西浅には、ちりめん山椒や味噌漬け、オリジナルの醤油など、魚のおいしさを引き出す“自家製”の商品があります。
たとえばちりめん山椒は、100人以上いるスタッフのうち、たった3人だけが作れるというこだわりの逸品。香りとツヤ、火入れのタイミングまで、熟練の技が詰まっています。取材当日は、ちりめん山椒づくりの技を持つ若宮さんにお話を聞くことができました。
実は取材前から“自家製”シリーズのファンなので、すでに何度もリピートしていますが、実際に職人さんとお話するのは初めて。できたてのちりめん山椒と若宮さんおススメのスズキの味噌漬けを購入し、お家でおいしくいただき、贅沢な時間を過ごしました。
児玉代表からも、「ぜひ遠慮なく職人とコミュニケーションをとって、いろいろと魚の相談をしてみてください」とのことで、これからの買い物も楽しみになりました。
魚を通して伝えたい想い
店内にズラリと並ぶ新鮮な魚から少し視線を上げると、西浅が毎月発行しているフリーペーパー「西浅の西浅」、西陣織の端切れを使い地域企業とコラボして作ったおしゃれな魚が展示されています。
魚(商品)に比べるとスポットライトを浴びることは少ないですが、もうすぐ100号を迎えるこの紙面には、魚への想いや職人たちのこだわりが綴られています。
児玉代表はこう話します。
「うちの職人たちは本当に魚が好きなんです。すごいテクニックの持ち主ばかり。自分を“まだまだ”と謙遜する職人もいるけれど、本当にすごい。そんな魅力をもっとお客様や産地の漁師さんに伝えていきたいと思っています。」
西陣という土地と、魚のある暮らし
西浅は、創業者・児玉浅七さんが料亭「西利」で修行したのち、屋号と自身の名から一文字ずつとって名付けたのが始まりです。西陣の町で、創業当初から鮮度と技術の高さで多くの人に支持されてきました。
児玉代表は、「本社が西陣だからという意識は強くないですが、1号店である烏丸店にはいい意味で厳しいお客様が多いように感じます。御霊祭には鯖寿司、祇園祭には鱧など、地域の伝統行事に合わせた魚へのこだわりもあり、文化とともに歩ませてもらっています。」と語ります。
「魚食文化」をつなぐ、伝える
西浅は、ただ魚を売るだけではありません。魚の旬やおいしい食べ方を伝え、料理する楽しさを伝えています。
日本には、道具、調理法、保存法、そして箸の使い方に至るまで、魚とともに育まれてきた独自の「魚食文化」があります。西浅はその文化の担い手として、自尊心と誇りを持ち、日々取り組んでいます。目利きと技術、そして魚への深い愛情を持つ職人たちの姿から、私たちは「本当においしい魚」と、それを支える人々の存在に気づかされます。
Special Thanks
株式会社 西浅
本社 〒602-0011 京都市上京区室町通鞍馬口下る森ノ木町462
URL https://www.nishiasa.co.jp/index.html
Editor
be京都 岡元麻有
Art Gallery be 京都館長。関西学院大学卒業後、広告代理店にて企業の販売促進を手掛ける。京町家で生活しながらbe 京都で文化芸術活動を発信。京都市プロジェクト推進室にしZINE担当。京都市上京区カミングレポーター。