京町家の建具替え-夏を乗り切る暮らしの知恵と美意識
西陣の意匠

▲おおきに迎賓館 黒門中立賣邸
京都の町並み、歴史、文化の象徴ともいえる京町家。
京都市では、京町家条例を制定し、建築基準法が施工された昭和25年以前に建築された木造建築物で、坪庭や格子など伝統的な構造や、都市生活の中から生み出された形態または意匠を有する建物を「京町家」と定義しています。
近年、住居のみならず、飲食店や事業所として活用される事例が増加している一方で、取り壊される京町家も少なくありません。
京町家には四季折々の自然を感じる生活文化など、暮らしの美学や生き方の哲学が詰まっています。
今回は、そんな京町家のしつらいに注目しました。
「しつらい」とは、季節や年中行事に合わせ、調度品や装飾品で室内をふさわしく整えることで、「室礼」とも書きます。
起源は平安時代にさかのぼります。当時の建築様式である寝殿造(しんでんづくり)は、部屋の構造が仕切りのない柱だけの開放的な空間でした。
そのため、屏風や御簾(みす)、几帳(きちょう)、障子などの取り外し可能な建具で仕切り、調度類を配置して室内の装飾をして、日常生活や儀式の場を整えていました 。
現代の暮らしにも知恵と美意識が生きており、京町家では6月になると、障子や襖などの建具から葦戸(よしど)や簾(すだれ)、網代などに変更する”建具替え”が行われ、家全体が「夏のしつらい」へと様変わりします。
強い光を遮ってくれる御簾(みす)。風通しの良い簾戸(すど)。
網代と籐筵(とうむしろ)を敷くと少しひんやりと。
見た目や感触からより涼しさを感じられるようになります。
四季の移ろいと共に、豊かな感受性に満ちた生活の知恵が溢れているのです。

北区にある「平野の家 わざ 永々棟」の2階広間のしつらいは、利用者の希望に合わせて御簾、または障子・襖にかえることができます。
こちらは、大正から昭和に活躍した日本画家 山下竹斎の邸宅兼アトリエとして,大正15 年(1926)に建てられた木造の建物。近年、数寄屋大工による保存修理工事が行われ、現在は、茶道教室、展覧会やコンサートの会場等として活用されています。

おおきに商店が運営する「おおきに迎賓館」のしつらいも、涼を運んでくれます。
京都には黒門中立賣邸、紫明出雲路邸があり、京町家を改修して宿泊施設やレンタルスペースとして活用されています。
細部に渡り、粋な心遣いがある空間です。

夏障子は竹や葦、萩が主な材質です。涼風を誘い入れ、開放的な空間を作り出だしてくれます。三方を山で囲まれている盆地の京都には、建物の風通しを良くするために必要不可欠な建具です。
夏のひかりを、涼しげに遮ってくれるので昼間でも木陰にいるかのように気持ちが良くなります。
平野の家 わざ 永々棟の河野さんは、「建具を替える習慣は、季節の移ろいを暮らしに取り入れ、自然と調和しながら快適に過ごすための工夫だと思います。また、建具を替えることで空間に変化が生まれ、訪れる人へのおもてなしの心を表現することもできます。こうした昔から続く日本の美しい風景や、先人たちが築いてきた知恵を、これからも大切に守り、次の世代へ伝えていきたいです。」と教えてくれました。
また、おおきに迎賓館の山岡館長は、「しつらいを変えることは、行事や季節を感じることができ、お客様との会話も豊かになります。和室には自然の光が柔らかく差し込み、日中は必要以上の照明はつけなくて十分だと感じます。簾は見た目にも涼しく、夏の強い光を遮ってくれ、涼風を運んでくれます。中から外の景色は見えますが、外から室内は見えません。採光と通風を確保し、プライバシーも守られています。」と言います。
西陣のまちでは、暖簾が夏仕様に衣替えされている景色も見かけます。
建具替えは町家の室内でしか見ることができませんが、朝晩の打ち水、風鈴の音色、扇子や内輪…京都の夏の暑さをしのぐための先人の知恵です。
暑さに気を付けて、どうぞ夏の風情をお楽しみください。
Special Thanks
平野の家 わざ 永々棟
〒603-8323 京都府京都市北区北野東紅梅町11
https://waza-eieitou.com/
TEL 075-462-0014
おおきに迎賓館 紫明出雲路邸
おおきに迎賓館 紫明出雲路邸
〒603-8133 京都府京都市北区出雲路松ノ下町16番地
https://geihinkan.ookini.jp/shimei
TEL 075-451-0092
Editor
岡元麻有
Art Gallery be京都館長。関西学院大学卒業後、広告代理店にて企業の販売促進を手掛ける。京町家で生活しながらbe京都で文化芸術活動を発信。京都市プロジェクト推進室にしZINE担当。京都市上京区カミングレポーター。