まち全体がアート。西陣界隈の近代モダニズム建築-③京都モダン建築祭in西陣
西陣の意匠
近現代の名建築を一般公開する「京都モダン建築祭」が2023年11月2日(木)~12日(日)に開催されました。
2年目となる「京都モダン建築祭」は、有料パスポート(チケット)があれば見学できる約51の建築に、4.9万人の来場者があり、盛況のうちに幕を下ろしました。
(特別ツアー、連携企画含む参加建築数は79)
初年度は公開期間が3日間、公開エリアは中京、平安神宮近くの岡崎、御所西の3エリアだったのに対し、今回は京都駅・七条、西陣、衣笠など公開エリアと開催期間を拡大して実施され、一部は事前予約制とすることで、初年度に問題となった行列の解消にもつながりました。
京都といえば神社仏閣というイメージが強いですが、近代モダン建築に注目し、実際に足を運んで体感する企画に多くの関心を集めたといえるでしょう。
戦災が少なかったこともあり、現存する京都のモダン建築。そして、それらを守り受け継いできた人の力があることを知り、後世に受け継いでいく力になる企画だと思います。
すでに「にしZINE」のコラム「まち全体がアート。西陣界隈の近代モダニズム建築」において、平安女学院大学、聖アグネス教会、京都府庁、京都市考古資料館などを紹介させていただいているように、西陣が「モダン建築」としてエリアに加わったことが大変うれしく、引き続き注目したいと思います。
▶参考
まち全体がアート。西陣界隈の近代モダニズム建築―①
https://nishizine.city.kyoto.lg.jp/column/nishijin-architecture1/
まち全体がアート。西陣界隈の近代モダニズム建築-②
https://nishizine.city.kyoto.lg.jp/column/nishijin-architecture2/
京都モダン建築祭のエリア分類では、徒歩圏内で周遊できることを目指したため、京都市考古資料館、元西陣小学校、京町家をリノベーションしたbe京都、藤田家住宅、OTA.lab(旧太田機業店)、大正・昭和の趣を色濃く残したマジョリカタイルがかわいい船岡温泉を西陣エリアとして紹介しているのですが、北大路、衣笠・北野、御所西エリアも広く「西陣」と総称すると、約20もの建築が紹介されています。
教会、会館、宿泊施設やギャラリー、元小学校など気になっていた建物内部を見学できる貴重な機会となり、参加された方からも高い評価の声がありました。所有者や建築オーナー自らがガイドや案内を行う建物は特に好評で、建築的視点のみならず、建物を大切に守り伝えている様子に心が動かされた方も多かったようです。
まだまだお伝えしたい近代モダニズム建築がありますのでご紹介します。
□北大路エリア
・京都復活教会
堀川北大路にある京都復活教会の礼拝堂も公開されました。
人気のヴォ―リズ建築で、ゴシックの意匠が採用されています。ステンドグラスも美しく、正面にはイエス・キリスト、左右の窓にはギリシャやラテンの十字が描かれています。
・紫明会館
紫明通にある紫明会館は、ステンドグラス、スペイン瓦や丸窓が特徴で、外観もほぼ建設当時のまま、戦前の雰囲気を残している歴史ある会館です。京都師範学校(現京都教育大学)の創立50周年を記念し同窓会により1932(昭和7)年に建設されました。平成27年には、国の登録有形文化財に指定され活用されています。
・日本福音ルーテル賀茂川教会
1954(昭和29)年、戦後に建てられた貴重なヴォーリズ建築です。会堂はノアの箱舟をイメージして設計されたといわれていて、木造トラスの小屋組、白い壁、木の腰壁で囲まれた温かみのある空間です。安心感を与える赤い屋根も印象的です。
□衣笠・北野エリア
・衣笠会館(旧藤村岩次郎邸)
1905(明治38)年に建てられた旧藤村岩次郎邸(現・衣笠会館)は、イギリス積のレンガ建築でアーチ窓が印象的です。大正時代になって、2階の部屋の一部が和室に改装されたことで、窓がレンガでふさがっているのを外観から探すのも楽しいです。
部屋ごとに異なる暖炉がありモダンでおしゃれです。
衣笠繊維研究所が所有管理されており、糸と関連が深い西陣とは切り離せない存在と言えるのではないでしょうか。
衣笠・北野エリアでは他にも、建築家 菊竹清訓(きくたけ きよのり)氏の設計である京都信用金庫北野支店のコミュニティホール、立命館大学以学館・旧堂本印象邸、衣笠山の家(小林邸)、櫻谷文庫(旧木島櫻谷家住宅)も公開されました。
衣笠は絵描き村とも言われて日本画家の大家とその門弟が集まり、芸術文化の街として栄えていました。そのような視点で建築を巡るのも興味深いですね。
□その他・上京区西陣の高まる魅力!
堀川団地では、「京都美術工芸大学の建築学生と考える≪堀川団地≫の未来」と題した展示とトークイベントが実施され、若い力も感じました。
上京区の河原町通にある毎日新聞ビル。中京区の三条通に面していた旧京都支局の移転で、1999(平成11)年に河原町通沿いに建てられた7階建ての建築で、最上階にあるホールが見どころです。設計した建築家の若林広幸氏が狙いや思い出を語るトークもあり、「号外」が配られ話題になりました。
重厚で圧倒的な存在感を放つ京都府立医科大学 本部棟(旧附属図書館)も魅力的です。建物は1929(昭和4)年竣工で、設計は建築技師・十河安雄氏によるもの。現在は大学本部棟として活用されています。
また、新たに西陣エリアが加わったこともあり、西陣で活躍する京友禅ブランドSOO(ソマル)によるめがね拭き「おふきmini」が付いたセット券も販売されました。
□最後に
このコラムは、建築所有者であり公開建築のひとつであったbe京都の館長として、また建築祭の事務局の一員として、書かせていただきました。
歴史ある建築を所有し、維持していくことは一言でいうと「大変」だと思います。
ですが私たちが今いる時代は、長い歴史のほんの数年にすぎません。歴史を重んじ、その中に革新を繰り返し、進化しなければならないことに気づかされます。
建築祭がうたう、「守ってきた人がいる」だから建築が残っているんだという思いに共感した気持ちを忘れず、先人に敬意を表し、私たちは今、後世に伝えていかなければならないのではないかと思います。
公開建築として協力いただいた所有者やオーナーの皆様にはこの場を借りて感謝の気持ちを伝えたいです。普段見られることのない場所の念入りなお掃除とお手入れ、祭壇へのお花、打ち水…そうした日々の建物への愛情の積み重ねが、長い歴史の1ページとしてつながっているのだと思います。
ありがとうございました。
Special Thanks
京都モダン建築祭
Editor
岡元麻有
Art Gallery be京都館長。関西学院大学卒業後、広告代理店にて企業の販売促進を手掛ける。京町家で生活しながらbe京都で文化芸術活動を発信。京都市プロジェクト推進室にしZINE担当。京都市上京区カミングレポーター。