NISHIJIN TODAY西陣のコラム

クラフトのまち京都西陣が誇る「クラフトジン」
西陣に学ぶ traditional culture, art, history and technology.

日本では1994年の酒税法改正により、ビール醸造の免許に必要な年間最低製造量が引き下げられたことから、小規模事業者が参入しやすくなり、全国にマイクロブリュワリー(小規模なビール醸造所)が誕生しました。以降京都のクラフトビールシーンも進化を遂げており、以前のコラムでは、西陣のタップルーム(樽生が飲める場所)併設のブリュワリーを紹介しました。

▶「京都・西陣のクラフトビールが面白い!」
https://nishizine.city.kyoto.lg.jp/column/craftbeer-nishijin/

■クラフトジンの広がり

最近は、クラフトジンと呼ばれるこだわりのジンをつくる小規模な蒸留所が増えています。

背景には、ジンの本場であるイギリスで、およそ200年ぶりに蒸留免許を取得してジン作りを始めたシップスミス社のクラフトジンが大きな話題となっていることがあり、この人気がイギリスの周辺国やアメリカまで広がり、遅れて日本に波及してきました。

ジンは原料用のアルコールにジュニパーベリーと呼ばれる針葉樹の実のほか、スパイス、ハーブ、フルーツなど、ボタニカルと呼ばれる植物をつけ込んで香りをつけ、蒸留して作ります。ボタニカルとしてさまざまな植物を原料に用いることができるジンは特色を出しやすいスピリッツ(蒸留酒)なのです。

現在、国内の蒸留所がその土地独自の素材を生かしたクラフトジン作りに取り組んでいます。

そんな中、生麩の老舗である「麩嘉(ふうか)」が、洛北・花脊特産のクマザサとクロモジを使ったオリジナルスピリッツ(蒸留酒)とクラフトジンを作られているということで、代表取締役社長の小堀さんにお話を伺いました。

■麩嘉がクラフトジンを作ろうと思った理由

麩饅頭はもともと「麩嘉饅頭」と呼ばれていたように、麩嘉が起源の銘菓です。これを包むためのこだわりのクマザサは、左京区花脊別所のもので、香り高く、葉の表面に産毛が生えていないため食品を包むのに適しています。しかし、このクマザサが近年、鹿の食害などにより絶滅の危機に瀕しています。

麩嘉では、防鹿柵(ぼうろくさく)の設置など、二ホンジカからクマザサを守る活動に加え、京都の特産品を未来に残していくために、左京区花脊に「花脊農園」を作り、食の未来を繋ぐ取り組みを継続実践しています。この取り組みからのプロダクト第一弾として、花脊のボタニカルを使ったスピリッツ、クラフトジンが生まれました。

花脊の地は、湿度が高く寒暖の差があり、海抜600メートルという高地であることから霧も深く、香り高い植物が育ちやすい場所です。

もちろん、香り高い植物が育つからと言って、そのままスピリッツやクラフトジンに使えるというわけではありません。

スピリッツやクラフトジンに使うためには、植物の香りの高さを維持する必要があり、そこには麩饅頭づくりで培ってきた、麩嘉のクマザサの保管方法の「技」がいきています。

現在は、クマザサ、クロモジを使った2種類のスピリッツと1種類のクラフトジンを製造しています。

クロモジの香りの高さをいかすには、4月~6月の時期に収穫することが大事で、現在、セカンドバッチ製造(初製造の次の製造)に向けて、それらを乾燥させていると教えていただきました。

そんな貴重な乾燥させたクロモジを少し削って熱し、その場で香りを味わせていただきましたが、さわやかでスパイシー、それでいて上品な香りでした。

■広がるストーリー

個性と強みをいかした「山の香りの集合体」から新しい世界が生まれています。

スピリッツ、クラフトジンは、試行錯誤を繰り返してようやく完成し、年間の製造本数は最大1500本とのことです。

小堀さんが手掛ける、花背の地で収穫された香り高い植物をいかした「花背のかをり」プロジェクトでは、クラフトジンに続き、ふきのとうオイル、山椒を使ったオイルが生まれていて、花背の土と、清々しい水、光、空気でじっくり育った植物の香りを存分に楽しむことができます。

小堀さんの狙い通り、今までになかったものを作ることは、話題性を生み出し、新たな層の関心を引き、「花脊ってどこにあるの?どんなところ?」というストーリーにつながるなどの広がりを見せています。

■西陣での展開

小堀さんは、ニューヨークに構えていた精進レストランでミシュラン二つ星を獲得されるなど、その味覚、手腕、目線、こだわりは世界に認められています。

そんな小堀さんの西陣での展開の一つに、ニューヨークでの経験を活かし、北野天満宮近くに、京都とニューヨークを結ぶというコンセプトのカフェ「Knot café(ノットカフェ)」を友人と共同プロデュースされていることがあります。

「Knot café」では、日本初上陸となるニューヨーク・ブルックリンのロースターからセレクトしたコーヒー豆や、チョコレート『North South Confections』と西陣の老舗和菓子店とのコラボレーション商品などを楽しむことができます。

「京都の食文化を守るために、なくしてはいけないものを未来に引き継いでいきたいとの想いから、微力ですがこういった取り組みをスタートさせました。」

小堀さんのお話を伺い、西陣で新たなコラボレーションなどが生み出されていることに喜びを感じるとともに、小堀さんが豊かなアイデアと強いプライドをお持ちになっていることを実感しました。

これから地域の魅力をどんなストーリーで伝えていっていただけるのでしょうか。

小堀さんのブランディングにどんどんハマっているなぁ、と「VALLEY OF FLOWERS-SPIRITS KUMAZASA」のソーダ割りを飲み、笹の香りに包まれながら感じました。

Special Thanks

麩嘉写真

麩嘉

〒602-8031 京都市上京区西洞院通椹木町上る東裏辻町413
TEL 075-231-1584

※本店では小売りはしておりません。ご希望の方は事前にお電話にてご予約の上ご来店いただくか、オンラインショップでお買い求め下さい。
https://fuka-shop.com/

Editor

岡元麻有写真

岡元麻有

Art Gallery be京都館長。関西学院大学卒業後、広告代理店にて企業の販売促進を手掛ける。京町家で生活しながらbe京都で文化芸術活動を発信。京都市プロジェクト推進室にしZINE担当。京都市上京区カミングレポーター。

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